遙かな地

 酔うと口が回り出すたちのようだった。バーカウンターにもたれ、彼は鳥を探していると言った。弟が逃してしまった赤い鳥の雛、やんちゃなやつだったから今ごろ大きく育って元気にやっている。彼は鳥の飛び立った東へ東へ旅しているという。

 おれはそのゆきずりの相手。

 夜明け前に目を覚ますと、彼はおれに背を向けて眠っていた。薄明かりのなかで視界にきらきらとちらつくなにかがある。銀の粉をこぼしたようなそばかすだった。そして、鳥のかたちの赤いあざ。しみひとつ、ほくろひとつ見当たらない白い背に流れる天の川で、翼を広げている。

 おのれの背はいつもこの世で最も遠い場所だろう。彼の旅はきっと永遠に終わらないのだと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る