死と悦楽の街で喘ぎもがく、少年少女たちのジュブナイル

東京の最果て、死と悦楽に狂った廃都市、シャーロックタウン。
公文書には「ごみ埋め立て地」と記されるその街では、今日も少年少女と標的とのデスゲーム《遊戯》が繰り広げられている。

暴力的で退廃的で、不健全。病的な感情が横たわる、色彩に乏しい世界観。
うつくしく情感豊かな噎せ返るようににおいたつ文章はしかし、抑制されたストイックさも備えており、リーダビリティに富んでいる。
生き急ぐように軽やかに、過ぎゆく時を惜しむようにゆったりと。緩急をつけて展開していくストーリーを追いかけているうちに、気づいたときにはこのシャーロックタウンに首ったけになっていること請け合い。

なによりも魅力的なのは、この街に巣食う住人たち。
どこか無機質で淡泊に見える主人公・ナキをはじめ、ナキを慕う可憐で天真爛漫なウタ、ナキに対抗心を燃やすわがままでおしゃれが大好きなノルン、ナキに悪質な悪戯を繰り返す魔術師。そして《遊戯》を牛耳る支配者・シャーロックと、ファミリーを捨て街を出ていった女・ダフネ。
彼らのすべてに二面性があり、複雑に絡み合った関係性は物語が展開するほどにこんがらがり、取り返しがつかなくなっていく。
けれどこの仄暗く、死がありふれた物語がいとおしくてならないのは、血と泥に塗れながらも喪われることのない、諦めの悪い少女性があるからです。
いつかどす黒く塗りつぶされてしまうかもしれないと危ぶみながらも、この世界に一筋射した希望のような何物かに、どうしたって縋りたくなってしまう。

あらすじにある“未孵化”。
この言葉こそ、この物語を体現しているように思えます。
ままならない現実で、それでも足掻かずにはいられない子らのジュブナイル。
殻を破ったその先にあるものがどうか、幸いであれと願わずにはいられません。

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