淫靡で退廃的で、きよらかな言葉の雨に溺れる、とっておきの贅沢

“今はもう眠れるお城の足元に、ラ・キトと呼ばれる古びた通りがある。ラ・キト通りに捨てられた子どもたちは、清らかなのは教会へゆき、淫蕩なのは娼婦になる。子どもたちを運ぶのは、真っ黒いコートに身を包んだコウノトリ。”

そんな印象的な冒頭からはじまる、自分ではないものによって生きる道をさだめられた少年少女たち、そして色々なものを拗らせた大人の御伽噺。あるいはモラトリアム。
物語の舞台は、桜舞い散る娼館街、ラ・キト通り。
においたつような湿った文章が心地よくて、たった数行目で追っただけでもう、この世界に耽溺してしまいます。

娼館街だけあって、物語からくゆってくるのは、退廃に背徳といった気だるさ。
そうした名状しがたい情念を描きだす筆致はいっそ執拗なほどで、読み進めるほどキャラクターの陰影が増していきます。

このお話には、劇的な事件もどんでん返しも起こりません。語られる世界は、箱庭じみて窮屈さすらある。
けれど、倦んで燻っていた子どもたちがそれぞれに辿りついた結末は、淫蕩さを孕みながらも、なんて清冽ですがすがしいのでしょう。

ちょっと洒落た喫茶店に入ってみた昼下がり。お気に入りの紅茶を片手にひとりきりで過ごす金曜の夜。
贅沢な読書をしたいなあというひととき。
あなたもラ・キト通りに迷いこんでみませんか。