最終話 三年後 - 3 コーラドにて




 連合国はこの三年間で空港が数多く出来上がった。お陰でファルココからも、以前は車か汽車で何日もかかった航空母艦都市コーラドへ二時間足らずで行ける。


 マナとコッパ、それにジョウ、リズ、タクマは、コーラドの格納庫であの飛行機と再会していた。


「ピッカピカになってるね……パンサー」

 マナが扉の近くへ行くと、ジョウが先回りして開けてくれた。「ありがとう」とお礼を言って中に乗り込む。機内も、三年間海に沈んでいたとは思えないほど綺麗だ。


「本当はもっと早く引き上げてやりたかったんだけどね。あたしもジョウも、タクマの事で手いっぱいだったから」

 リズもタクマを連れて中に入ってきた。タクマはあちこち走り回ったり、覗き込んだりしている。

「ママ、この飛行機操縦してたの?」

「ああ。あんたが生まれる前にね」

「操縦してみて」

「今? 無理だよ」


 マナがタクマの前にしゃがんで目線を合わせ、得意げに笑って見せた。

「明日から毎日みたいに見られるよ。私のおかげでね」


 ところが、リズは「いや」と頭を掻いた。

「それはちょっと難しいかな」

「えっ、どうして? だって……それじゃあ誰が」


「いや、もちろんあたしも操縦できるよ。でも、今回はにやらせたいなって思っててさ」

「弟子? 弟子って……誰?」

 知らない人間が旅に入って来るのだろうか、そう心配したマナのところに、タイミングよくそのがやってきた。後ろからマナの背中を叩く。そこにいたのは、金髪にブラウンの瞳、そしてあのおすまし顔。


「マナ、久しぶり」

 元シャラク傭兵団のパイロット、シンシアだ。マナは突然の再開に「ええっ!」と大声を出して驚いた。


「シンシア、リズの弟子になってたの?!」

「うん。二年半前から。これからの旅は、私がパンサーを操縦する。……あなたが許してくれれば」


 パンサーに乗ることもリズの弟子になっていた事も今の今まで聞いていなかった。シンシアがパンサーのパイロットに……マナにとってはただただ、嬉しい再会だ。満面の笑みで手をさし出し、シンシアと握手を交わした。




 シンシアの家で共に夕食。この家は元々リズが住んでいたゴミ屋敷だったが、弟子のシンシアが譲り受けたことによってピカピカに片付けられていた。

 その上にオシャレな壁紙や家具もそろえられ、『お姫様の隠れ家』とでもいったような上品で可愛らしい雰囲気になっている。


 マナとジョウがテーブルにシチューの皿を並べる。シンシアは二人に配膳を任せて、携帯電話をかけていた。

 以前は非常に高価だった、携帯電話を始めとした小型の通話端末だが、アキツのアーマー鉱山イワミから発掘されたテクノロジーによって、ここ三年で一気に身近なものとなった。

 シンシアの電話の相手はどうやらジョイスとヤーニンらしく、銀眼で視界を共有しながら、マナ達の姿を向こうに見せていた。




「ねえマイマイ」

「コッパだ! この記憶力ゼロのガキんちょめ!」

 タクマはコッパにニンジンの入ったスプーンを差し出した。

「あげる」

「いらねえよ、自分で食え。どうしても食べてほしかったら、ちゃんとコッパって呼べ!」

「コッパ、あーん」

 タクマのあーんに合わせてコッパが口を開けると、リズがタクマからスプーンを取り上げた。ニンジンをタクマの皿に戻す。

 そのどさくさに紛れて自分のニンジンをタクマの皿に入れようとするコッパ。それをマナが「こらっ!」と小突いた。


「全く……。ねえシンシア、前から飛行機操縦できたよね。リズに弟子入りしてから、何か変わったの?」

 シチューを食べながら聞くマナ。シンシアは「弟子より師匠に聞いて」とリズに答えを任せた。


「風を見極める力は相当上達したよ。初めは修行に身が入るか心配だったけどね。この街の男パイロット共が、みーんなシンシアに惚れてちょっかい出してたから」


「えっ!」と最初に興味を示したのはコッパ。

「彼氏できたのか?」

「できない」とぶっきらぼうにシンシア。

「へえ。何人と付き合った?」

「付き合ってない」

「えー、お前、三年経ってもパンクが忘れられないのか?」

「……うるさい」

 シンシアが睨み付けると、コッパはケラケラ笑ってジャガイモを口に押し込んだ。


「いいと思える男がいないだけ」


 今度はジョウが聞く。

「『神速のローゲン』は?」

 懐かしい名だ。コーラドでマナ達が最初に依頼をしようとしたパイロット。結局断られた上に、後にひどい目に遭わされた。


 シンシアはあのおすまし顔を崩して心底嫌そうな顔で、バッサリこう言った。

「あいつ最低最悪」


 リズが「あっははは!」と高笑い。未だに彼を嫌ってるらしい。



 シンシアが三年経っても忘れられないパンクは、ジョイスと付き合っているのかどうなのかよく分からない距離感を三年間も保ったまま、アキツの秋大寺で修行を積んでいる。

 今度ギョウブの小織眷属になる、という連絡を受け、マナもこの前電話で色々と話したばかりだ。


 パンクの話だと、イヨとカンザは結婚したものの、イヨはクロウのお伴で旅に出てしまったため、カンザはイヨの目の届かないアキツで若い女の子を引っかけて毎日のように遊んでいるそうだ。

 バンクは初めはギョウブの眷属として修行していたが、どういうわけかタマモに気に入られたらしく、半ば連れ去られる形でタマモの眷属になったらしい。

 ザハはアキツ特有の亀に魅せられ、研究や調査の日々を送っている。


 マナは指折り一人一人の近況を思い出していた。

「シンシアはコーラドでパイロットやってて……ジョイスとヤーニンは?」


「ヒビカさん直属の諜報部で、諜報員として世界中回ってる。今は連合国の西にある『マロ王国』って所にいるみたい」

 シンシアはマナにそう教えると、スプーンを置いて口を拭いた。


「それで、私達が向かうのはどこ?」



 マナはザハにもらった本をテーブルに乗せて、付箋の貼ってあるページを開いて見せた。ジョウとリズにシンシア、コッパとタクマも覗き込む。



「音を自由自在に操るコウモリがいるの。目指すは巨大怪虫きょだいかいちゅうの森、アイゼルウェーヴェン!」












 おしまい

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ランプ -Mana's adventure- ロドリーゴ @MARIE_KIDS_WORKS

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