簡潔に書いて通じるのは、その内容を既に知っている人だけ

 これ。書き忘れてたかなーと思ったんで、本当の基本の基本ですけど今さらで。


 えー、よく書き方の講座とかで言われますが、「簡潔に書きなさい」という言質には落とし穴があります。


 例えば、「りんご」という単語一つ取ってもそうなんですが、これが通じるのはあのリンゴという果実がリンゴというネーミングを付けられているという事実を了解している人間同士の間だけの話なんですね。外人さんに「りんご」と言っても通じませんね、解りますね。


 これ、文章になっても同じ原理が働きます。


 小説で、特に推理小説でフーダニットを徹底してしまったせいで、人情面ではまったく何も届かないなんてのはよくある話です。犯人を隠したいあまり、その人物の描写はほとんど書かなかったので、犯人に同情するような心理が読者にはまったく芽生えなかったんですね。あるあるです。書かれないキャラはただのモブです。


 よく、テンプレラノベへの文句でも聞く話だったりします。ぜんぜんキャラに思い入れが出来ない、という苦情はようするに読者が置いてけぼりになっているってことです。小説ってのは、解りやすけりゃいいってモンでもないんですよ。


 私が昔、読者無視の自己満足だけで書いていた頃にはよく言われていました。

「なんかよく解らないけど、面白かったよ!」


 これな。


 ストーリーがジェットコースターみたいといって褒められても、他は何も残らなかったというわけです。スピード感にすべて収斂させ、キャラも余韻も作者の頭の中だけにしかない、ぜんぶ削り取られたダイジェスト版みたいなものだったからです。


 そういう余分を抜き去ったシンプルさでの「面白い小説」というモノもアリっちゃアリです。そうではない、複合的な味わいを残した上での「面白い小説」ってのもあるわけで、自分がソレ解らんからって否定すんのは止めましょう、恥かくよ?


 素人小説ではなかなかソッチの系統の面白い小説は少ないです、なので、文豪とか名の通った名作を読め、と言われるわけですな。


 簡潔に書かれた文章では本当の意味での理解は得られないからです。比喩という技術がなぜ存在するかを考えれば答えは簡単でしょう、手を変え品を変えで説明を繰り返し、こと細かに表現せねば正確に情報が伝わらないからです。


 絵を描く人の多くは感覚的にそこんところが解るのですが、描かない人は疎かにする傾向が強いような気がします。細かなディテールが解らなければ伝わったとは言わんのですけどもねぇ…


 これ、漫画とかで「こんなのすぐ描ける」とか思っちゃうのに通じるものがあります。全体を目に入れた時の感覚ですぐ描けそうと思うのですが、実際に絵筆を持って、実際に描いてみれば、そうではないと実感を得られるわけですわ。


 ただ、小説の場合は絵のように、自己判断で一発ではそれが解らないのが…(苦笑


 伝わるだけの文章が書けていない、ということが小説の場合は解りにくいです。




 ちょいちょい目にするそういうタイプの人の意見にこんなのがあります。


「まだるっこしい説明がダラダラ続いて、だけど、肝心な部分は一行ほどでしかないんだよねー、」


 いや、お前。そのダラダラの説明があるから、肝心な一行ってのが真に理解できるようになるんだよ。その一行だけを書かれたって、解るもんじゃないんだ。そのダラダラ部分をいかに苦痛なく読ませるか、てんで四苦八苦してんのに、やーねー。(笑

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