第4話 「幕間」
―げきじょう―
「これで、10話の検証が終わりました」
疲れ切った表情の少女が、何度目かわからない溜息をつく。
「全部ダメだったわねぇ」
「ええ、でもこれで各話毎のイベントは必須である、ということが証明されました。やっぱり黒セルリアンを何とかする、しかないみたいです」
「問題が振りだしに戻っただけね」
「それでも進歩です、また明日頑張ります」
ここ数日は検証の繰り返しだった。
なんの進展も成果も得られないまま繰り返される物語に少女は疲れ切っていた。
仮説が証明された・・・?
自分しかいない世界で証明して何になるのか・・・
もっと、自分とサーバルを生かす為に手探りで大胆な試行錯誤が必要なのではないか・・・
いや、でも試行錯誤しているんだ、少しでも前に進んでるんだ・・・そう思わなければ、この孤独な劇場は耐えられない・・・。
―――――
睡眠から目覚めた少女が控室を出て劇場へ向かう。
するといつもと雰囲気の違う劇場の姿があった。
半分空いた非常灯の扉からホールの様子を覗くと、なにやら騒がしい。
客席に人の姿は無いが、喧噪は鳴りやまない。
ああ、今日も不気味なこの世界。
繰り返されるは無情の物語・・・。
ドアを開け、劇場に踏み入るとまばゆい光が視界を奪った。
目をそむけ、腕で照明の直射を遮ると隙間から舞台脇に人影が見えた。
「やっと来たのです、物語の評論家が」
逆光でシルエットになっている人物が、マイクごしに言うと、劇場は溢れんばかりの拍手と歓声で包まれた。
「さあ早く席へ座るのです、その席はお前の為に用意されてるのですよ」
よくわからないまま少女が席に向かって歩きだすと、まるでクイズ番組のシンキングタイムのようなスローテンポの曲が流れ始めた。
「さあお待たせいたしましたのです、我らが評論家の準備もできたところで、次の舞台の幕ももう少しで上がるのです。ぽっぷこーんでも食べて待つのです」
「食べて待つのです」
周りから響くヒューヒューというわざとらしい口笛や歓声に、少女が困惑しながら後ろの席に話しかける。
「なんなんでしょう、これ」
「大変ねぇ」
奇跡の主にとっては本当に他人事のようだ。
というか後ろからむしゃむしゃと租借音と甘い匂いがする。
「というか博士さんと助手さんですよね、何やってるんですか?」
舞台脇でくるくると動く二人に少女が声をかける。
「評論家から声がかかったのですよ助手」
「これは驚きびっくりくりっくりなのですよ」
「二人共なんだかテンション高いですね」
「ややっ!これは手厳しいお言葉なのです、しかしこれは舞台を盛り上げる為のでもんれーしょんなので気にするななのです」
「博士、"デモンストレーション"ですよ」
「つまり、変える気は・・・?」
「ないのです」
「帰る気は?」
「ないのです」
「ま、まあ現実(?)でフレンズさんの姿を見れたのは久しぶりなのでいいですけど」
「そうそう、それでいいのですよ、気にしたら負けなのです」
「負けなのです」
少女はなんとなくで察する。
「姿は博士さんと助手さんですけど、違うんですよね?」
「おや、見破られたのです」
「見破られたのです、これは驚きですよ博士」
少女はうんうんと、納得したように頷く。
「我々は、お前の怨念が作りだした記憶の幻のようなものなのです」
「実際にここに存在しているわけではないのです、その後ろのヒトと似たようなものなのです」
助手が、少女の背後を指さす。
「あー・・・やっぱり、そうなんですね」
ここが死後の世界だか今際の世界だかわからないが、結末を迎え
"怨念"になったらしいボクの世界、そんな世界に沢山の誰かがいる方がそもそもおかしい。
「なんとなーく、ボクの妄想とかそういう感じなのかなぁって思ってましたけど」
事実を突きつけられると、ことさら空しくなる。
「待つのです、評論家。助手は"似たようなもの"と言ったのです」
「そうですよ、似てはいるけど別物なのです」
「そいつは半分だけ、"居る"のです」
「半分だけ居るのです」
「???よくわからないんですが」
少女の質問には、奇跡の主本人が答えた。
「私は私、ある意味ではちゃんとここに存在しているってことよ」
後ろから頭を撫でられる。
優しく撫でる手から確かな熱を感じ、一人きりではないのかもしれない、と少し安心してしまった。
「私達がパークにいた頃からサンドスターは謎だらけだったから、こういう不思議なことも起こるものなのよ」
「まあここにいる事自体が奇跡なんでしょうから、それ以上ツッコみませんけど・・・」
劇場の端に置かれた大時計を見ると、いつもの最初の幕が上がる時間を過ぎていることに気づく。
「あれ、今日は始まるの遅いですね」
「おっと、評論家は幕を上げない舞台にご立腹なのです、ではではちょびっとだけ覗いてみるのですよ!」
「覗いてみるのですよ」
するするっと幕が上がると、舞台の上では小道具を持ってぱたぱたと走るサーバルの姿があった。
「あっ!まだ準備中だよー!見ちゃだめだめー!」
慌ててサーバルが舞台袖に消えていく。
「やれやれ、うら若きフレンズの秘密を覗いてしまったのです・・・皆、サーバルの愛らしい照れ顔に免じてもう少し待つのです」
どっ、と劇場に笑いが広がる。
「なんかめんどくさいですね、この博士と助手さん」
「気にしちゃダメよ」
少女が紙やペンを取りだし、干渉と観賞の準備を済ませるとすっと照明が消えて客席が静粛に包まれていく・・・。
「待たせたのです、出演者の準備が整ったのです」
「整ったのです」
響く歓声と拍手に合わせて少女も適当に手をペチペチと叩く。
「始めてください、次の物語を」
「さあ、評論家のゴーサインが出たのです、皆で二人の物語を見届けるのですよ」
ヒューヒュー!!
「落ち着こう、ボク」
苦笑しながら、少女が舞台をじっと見つめる。
そして新しい幕が、上がる。
つづく
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