もう一つの、ボクの物語
あきなろ
本編
第1話 「エピローグ」
「ずっとずっとついてきてね、かばんちゃん」
彼女は空を見上げ寂しそうに、そう言った。
―――――
「かばんちゃんっ、かばんちゃん!」
かつてはかばんだった虹色の球体に、サーバルが泣きながら縋りつく。
「ダメか・・・」
「自然に還り始めているのです」
悔しそうなヒグマの声も、達観したような助手の声もサーバルには届いていなかった。
「かばんちゃん、やだよっかばんちゃん!」
子供のように、泣きじゃくるサーバルの肩を博士が支える。
「サーバル、離すのです・・・元の姿に戻るのですよ」
そう、結局のところはそれが結末だ。
セルリアンに捕食されたフレンズはサンドスターを奪われ、自然へと還る・・・。
かつてそこにあった友達の命が漏れだすように、サンドスターが周囲へと霧散していく様を
もはや自分ではどうしようもないのだと悟ったサーバルがゆっくりと手を離すと
かばんだった虹色の球体は、光の粒子の様に風に溶け
そこには、大きなかばんと小さな帽子だけがポツンと残されていた――。
―ゆうえんち―
「サーバル、準備ができたのです」
「できたのです」
博士と助手が声をかけるが、サーバルはぼーっと空を見上げていた。
「ほら、しっかりするのですよ、まったく」
「いつまでうじうじしている気ですか、まったく」
両脇から頬をつねられて、ようやくサーバルがハっとする。
「あっ、博士と助手、えへへいふぁいよー」
「もうみんな集まってるのですよ、早くするのです」
「サーバルとかばんの為に、集まったのですよ」
「うん・・・、そう・・・だよね。――――ようしっ」
ずっと抱いていたかばんを背負い、サーバルの耳用に穴を空けた帽子をかぶる。
「じゃあ、行こうか・・・っ!」
―ぶたい―
ゆうえんちにある舞台の前に、様々なフレンズ達が集まっていた。
皆が、一ヶ月前にセルリアンに食べられ自然に還ったフレンズかばんと短い時を過ごしたフレンズ達だった。
普段は騒がしいフレンズ達も、今日はどことなく静かな空気に包まれている。
皆、思い思いに並べられた料理や、アルパカが持ち込んだ"お茶"を楽しんでいた。
「お、主役が来たな」
「みんな待ってますわよ」
ジャガーとカバが、会場に入ってきたサーバルを迎えると
皆が一層静かになり、舞台は静寂に包まれた。
かばんを背負い、帽子をかぶったサーバルの姿には誰も何も言わなかった。
ゆっくりと壇上へ上がったサーバルが、プリンセスからマイクを受け取る。
「す~~~っ、・・・みんな、今日は集まってくれてありがとう」
一ヶ月前、かばんを失ったサーバルは、酷くふさぎ込んでしまった。
最初の内は、誰が声をかけても何をしても、心ここにあらずの様子で、目も当てられない状態であったが
そんなサーバルを支えたのが、今ここに集まったフレンズ達だった。
皆が口々に言う、「かばんから教わった」ことが、サーバルの悲しみを、違うものに変えていったのだ。
「みんな、私はかばんちゃんがいなくなってとってもとっても悲しいよ
だから・・・もう二度と、セルリアンにお友達を食べられるなんてこと、起きて欲しくないよ」
そしてサーバル自身も、思い出と共にかばんから沢山のものをもらったことに気づいたのだ。
友情はもちろん、かみひこうきの作り方、橋のかけ方、お互いを傷つけない戦い方、服の脱ぎ方・・・
色んなものが心の中に残っていた。
「だから私は・・・みんなでお友達を、パークを守りたい
博士や助手の言う、みんなで一つの群れとして、誰も悲しまなくていいように」
フレンズ達から、パラパラと小さな拍手が鳴る。
「オレっちとプレーリーさんがいればセルリアンなんて怖くないおっきな壁だって作れるッス!」
「私達ハンターは、セルリアンとの戦い方を教えてやれるぞ、火の使い方も覚えたしな」
「私とカワウソは橋のかけ方覚えてるから、色んなちほーを繋げて、逃げ場を増やしたりできると思う」
皆が次々とセルリアン対策をあげていく。
そのどれにも、確かにかばんがいた。
大事なお友達と歩いた旅で残した、思い出がみんなの中で生きている。
みんなの中に、かばんはちゃんと生きているのだ。
「みんな、これから色々大変だと思う、でも私達みんながセルリアンに負けないくらい強くなれば
きっとこんな悲しいこと二度と起きなくてすむと思う!だから・・・みんな、私に力を貸して!」
おおー!とゆうえんち中にフレンズ達の声が響く。
彼女達が、一つの群れとしてこれからどういった進化を辿るのか・・・
それはここで語られる物語ではないが―――
きっと、どんなことでも乗り越えていけるのだろう。
不意に帽子の羽飾りを、風がふっと揺らした。
「かばんちゃん、私頑張るよ!」
少し汚れたかばんと帽子を、そっと撫で、サーバルが空を見上げ呟いた。
「だから・・・ずっとずっとついてきてね、かばんちゃん」
つづく
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