第6話 「ぼく達の物語」
―げきじょう―
そして、再び何度も物語を繰り返していく内に、少女は少しずつ気づいていく。
かつて"かばん"が、旅の途中で出会ったフレンズ達に与えたもの。
それは、知恵だったり思考だったり、創造の力でもあった。
そして、それをどのフレンズ達も大事にしていてくれたこと。
何度も何度も繰り返した物語で、それを実感する度に確信に変わっていった。
自分も、たくさんのものをもらったのだと。
それを全て成してこその"物語"であるのだと。
自分が窮地に陥った際、ラッキービーストが緊急信号を出す。
そして皆は助けに来てくれる。それは、かつての自分と、フレンズ達に相互に大切なものがあるからだ。
皆が、その大切な思い出を胸に、自分を助けるという形で返してくれている。
「ボクは、一人にだけ返していなかったんです」
再び舞台の幕が下りた時、かばんがそっと言った。
「一番近くにいてくれて、一番大切なものを色々くれたのに」
少女の瞳に、しっかりと希望が宿る。
「答え、見つけました」
少女の決意に、舞台脇の二人が何も言わずにふわふわと目の前に降り立った。
「それで、大丈夫なのですね?」
「大丈夫です、ボクがサーバルちゃんからもらったもの、それを示すだけですから」
少女が博士の小さな手を、きゅっと握る。
「もしそれで失敗したら、どうするのですか?」
心配そうに顔を覗き込んでくる助手の手にも、きゅっと手を重ねる。
「大丈夫です、やっと答えを見つけたんです、もし間違っていたとしても、次は何度だって希望を持って立ち向かえます」
うん、だいじょうぶだよ、もうこわくない。
「だから、見届けてください、次で最後になる・・・ボク達の物語を」
少女が凛とした表情で宣言した瞬間、劇場内に聞きなれた閉館のアナウンスが流れる。
「あ、あはは・・・かっこつきませんねこれじゃ」
「まったく、しかたないのです」
「ないのです」
「勝負は明日ですね、ボクは明日に備えて早めに休みますね」
少女が控室の方へ歩いていくのを、博士が呼び止めた。
「あ・・・かば・・・っ」
「はい?」
振り返る少女に、博士は俯いて、小さく言った。
「いえ、・・・おやすみなさいです」
「はい、おやすみなさい!」
ドアがぱたんと閉まり、劇場内には博士と助手の二人だけになった。
「博士、ダメですよ」
「わかってるのです、でも、これは・・・いくらなんでも」
博士の頬を伝って、ぽろぽろと涙が零れていく。
「なんでなのですか、どうして、新しいフレンズとして・・・」
「こうなってしまった、のです。もうこれは変えられないことなのですよ」
助手の瞳も静かに潤んでいた。
「我々が理解しているということは、あの子も心のどこかでわかっていることなのです」
「助手、我々は・・・ここでこんな姿をもらってまで・・・何もできないのでしょうか」
博士と助手が、お互いを慰め合う様に抱き合った。
「笑顔で見守るのです、それが、我々の姿や思い出を選んでくれたあの子へ返せる唯一のことなのですよ」
「うう・・・わかったのです、笑顔で・・・頑張るのですよ」
音も無く二人の姿がすっと光に消えていくと、劇場内には静寂だけが残されていた・・・。
―――――
「・・・よし!」
ベッドの上で、少女が胸の前で両拳をグっと握る。
「行こう・・・!」
ホールの扉をゆっくりと開く、気持ちが前向きなせいか、なんとなくいつもより軽く感じた。
「おはようございまーす・・・、ってアレ?」
いつもの姿なき喧噪や、博士と助手の姿も今日は見当たらない。
「???・・・なんだろう?」
考えても仕方ないのでいつもの席に腰かけて、幕が上がるのを待つ。
すると、いつもより早く幕が上がり、壇上には人影があった。
「あなたは・・・」
「初めまして、になるのかしら?」
少女がまだ舞台上の存在だった頃、ラッキービーストから幾度となく聞こえた声の主
そしてこの世界でも、ずっと少女の背後に居た声だけの存在"奇跡の主"・・・
「やっぱり、ミライさん・・・だったんですね」
ミライの姿をした女が困ったような表情を浮かべた。
「この劇場にはパークが平和だった頃、何度か来たことがあってね
きっとその時の「想い」だったり「願い」だったりが残ってたのね」
「じゃあ、本物のミライさんみたいなものってことですか?」
「過去の私、パークにいた頃の私だけどね、あなたのサーバルを幸せにしたいという想い
私のパークをなんとかしたかった悔しさや願いにサンドスターが反応して、こんな不思議なことになってるんだと思うわ」
ミライが自分にもよくわからないけどね、と笑いながら付け足す。
「私はあなたの願いと過去の私が混ざった曖昧なものだけれど、ミライとしての記憶がある以上
元々のあなたがどうやって生まれたかはわかるつもり、・・・私とどう関係しているのかも」
「ボクとミライさんに・・・何か繋がりがあったんですか?」
「それは大団円を迎えればわかるわよ、きっと」
コホンと咳払いをしてミライが続けた。
「劇場内を見て・・・、もう誰も残っていないの」
「はい、これは・・・もしかして」
「不思議なサンドスターの力にも限界があるってことでしょうね、これ以上はこの状態を続ける事ができなさそうなの・・・だから」
ミライが、客席の少女に手を伸ばす。
「私に残ったサンドスターを、あなたにあげる」
「え・・・?」
「これが最後の舞台になるのかもしれないんだもの、だったら・・・自分で、自分の目で見て自分の肌で感じてきなさい」
もう一度舞台に上がれ、とミライが手を伸ばす。
「私は"ぼく達"の物語を見届けなくても大丈夫、あなたなら掴めると信じてるから」
少女が立ちあがりミライの手を取ると、視界が急速に眩しい光に包まれていく。
何も見えない光の奔流の中で、ミライが少女を優しく抱きしめる。
「これから始まるのは・・・、あなたが立ち向かうのは"ぼく達"の物語、だから・・・」
そこで区切ってミライが、視線を外した。
「こんな残酷なことしかしてあげられなくてごめんなさい」
「大丈夫です、ボク達の物語・・・ちゃんと終わらせてきます」
「どうか、最上の選択を、最高の結末を迎えられますように」
「今までありがとうございました、ミライさん」
世界に引き込まれる感覚の際に、遥か遠くでミライの最後の声を聞いた気がした。
(さようなら、私の・・・フレンズ)
―――――
「・・・っん・・・ばんちゃん!」
体を揺さぶられて、聞きなれた声で目を覚ます。
「あ、やっと起きた!かばんちゃん今日はお寝坊さんだねー」
目の前でニコニコと笑うサーバルの姿を見て、かばんが辺りを見回す。
どうやら森の中にバスを停めて、その中で眠っていたようだ。
すでに日は高い。
「この調子なら今日中に港に着けるんじゃないかな!」
「オハヨウカバン、ミナトマデハ2ジカンホド、バスデハシレバトウチャクダヨ」
「・・・そっか」
「かばんちゃん?」
「戻ってきたんだ、ボク・・・」
ミライさんの言ったことは本当だった。
何度も拳を握り自分の体であることを頭に実感させる。
ボクはこれから戦わないといけないんだ。
検証するチャンスも、何時間もかけて次の手を練る時間も無い。
この、最後の一回きりで。
ボク達の、ボクとサーバルちゃんの物語の、未来の為に――――――
つづく
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