他人の心をすくい上げると同時に、救うための純文学。

 ノスタルジックファンタジー的な純文学作品。世界から少し外れた五人が力を合わせて、人の心を救い、世界を救う。群像劇的で、文章がずば抜けて巧い。物語と同時に、その文章表現にまで引き付けられた。
 人は誰でも目を逸らしたくなるような感情を、自分の中に抱えることがある。苦しいだとか、悲しいだとか。憎いだとか、恨めしいだとか。嫉妬や憐憫。尽きない苦労と感情。それらが作中では人形やきぐるみの行進として表現されている。いわば感情の可視化である。そのきぐるみ達を率いているのは、人形だ。その人形にも「負の感情」が詰め込まれていた。しかし、人間とは複雑な生き物で、「負の感情」だけを持つことはできない。「負の感情」の中に「温かな記憶」が隠されていたりする。主人公たちは、その「負の感情」の中に入り、「温かな記憶」をすくい上げる。それを提示された時、人は救われるのかもしれない。
 人の感情には、名付ける事すら難しいものがある。言い表せない幸福や、ドロドロとした黒いもの。この作品は、物語のキャラクターを通して、それらの感情をすくい上げて読者に提示する。「汚い感情」を否定するわけでもなく、同情するのでもなく、それを肯定して見せる。優れた構成力と確かな文章力が、それを可能にしている。
 この世界に出会わなかったら、後悔すると思います。
 是非、ご一読を。

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