スターゲイザー

春川もここ

000 プロローグ

2両編成のオンボロ電車は、夕暮れに赤く煌めく稲の海を抜け、煙突とクレーンだらけの造船所地帯を抜け、あたしの住む青い街へとゆっくり進んでゆく。赤や、光や、橙が、電車が揺れるのと一緒にどんどん遠のいていって、あたしは海底二万マイルみたいだと思う。向こうに見える群青も、いつかはやがて、黒になるのだ。真っ黒に。


雪はしおかぜ街の4つ前の町に住んでいる。あたしは雪が電車を降りると正直ほっとする。それはあたしが雪のことが嫌いだなんて理由ではなく、三人称になってこの街の灯りや、セーラー服の女の子を眺めるのが好きだからだ。カラカラカラと錆びた音がする。電車に備え付けられている天井の扇風機がぎこちなく首を振る。ボックス席にひとりで座っている女の子は絵本のページをめくるとような面持ちで窓の外を眺めている。


三人称で世界を見るとき、あたしはきっと幸せで、寂しく無くて、痛みだって悲しみだって他人事みたくなっちゃって、たとえばそれは、神様みたいな気持ちになる。そういう時、あたしは無敵だし、空だって飛べるし、魔法だって使えるし、見ず知らずの人々の幸せを心から願うことだってできる。そう、心から。

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