アラフォー塾講師の夏帆は、教え子矢口の不穏な一言に話を聞くことにします。
シンと腹の痺れるような辛い告白に、言葉を失う夏帆。慰めも励ましも、薄氷の上に佇む矢口の心には届かないと感じます。
代わりにポツリポツリと語ったのは、自身の過去と無感覚に生きる今の心情。
二人の言葉から浮き彫りになるのは―――
高校生の瑞々しい感性で捉えられた切羽詰まった絶望。
大人の疲れてあきらめと共に受け入れた絶望。
人物造形が見事なので、それぞれの抱える気持ちがリアルに胸に迫ってきました。
そんな二人が、ほんの少し、笑えるようになるラストにホッとすると共に、生きることの本質を思い出させてもらえました。
一人でも多くの方に、この作品を読んでいただきたいと思いました。
特に、今、笑えなくなっている方に。
夏帆さんと江口君と、心を重ねてみてください。
きっと、少しだけ、胸が温かくなるはず。
お勧めです!
塾講師の女性主人公は、受験を控えた男子高校生に夏目漱石の『こころ』について講義していた。その解釈をめぐって、男子生徒は主人公が思いもよらぬ解釈をする。それを主人公は注意した。
授業がお終わって、主人公がいつものようにスーパーに寄って帰ろうとしたとき、帰ったはずの男子高校生が現れる。話があると男子高校生は言うのだが、授業以外で塾生と話すのは禁止されていた。そこで主人公は近くの公園で、男子生徒と話すことにする。
しかし男子生徒が告白した悩みは、主人公の想像した以上の痛みを伴っていた。
進学校に通う男子高校生は、ひそかに勉強に逃げ込んでいた。
それはいったい何故?
主人公は男子生徒の切実な願いを聞くのだが――。
切なさで、胸が締め付けられるような思いがします。
それでも、主人公や男子高校生の未来が少しだけ拓けたような、
一欠けらの希望が見いだせる作品でした。
是非、御一読ください。