ヒーローでも剣豪でなもい武士が挑む、真剣勝負


 かつて政争に巻き込まれ、いいように使い捨てられて今は閑職に追いやられた男やもめの覚平は、再びある事件をきっかけに、藩の上層部に利用されてしまい、真剣での斬り合いをせざるを得ない立場に立たされる。

 不器用な侍が、大事な人を守るため、命をかけて戦う姿を描いた中編時代劇。いかにもな文体と、藤沢周平的な世界観が、読者をあっという間に時代小説の世界へ落してくれる。

 殺伐とした斬り合いがメインの作品であるが、その根底にあるのは、家族や知人、周囲の人への愛情であり、現代人には理解しづらい武家社会の矛盾に満ちた主人公の苦悩を、分かりやすいものへと書き換えてくれている。

 時代小説好きならば、読んで損はなし。時代小説を知らない人にも、入門書としては申し分ない。

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