主人公、覚平は橋の袂で、通行人が通行税五文を払うのをただ見ていることだった。五年もの月日の間、目立った事件も無く平穏に過ごしていた覚平。一人娘の千歳と共に二人で暮らしていた覚平はある日、一つの騒動をきっかけに大きな事件に巻き込まれることとなる。
口下手で不器用な侍、覚平。「万里眼」と呼ばれる目の良さが、作中のストーリーにしっかりと生きている。覚平には特別な力はないし、メインとなるのは剣術のみ。読み進めていくにつれてどんどん覚平に惹き込まれていく。そんな中編時代小説。
文体のわりにはとても読みやすく、時代小説好きな方はもちろんだが、これまで時代小説を読まれたことのない方でもすぐにその世界観に入り込める。これまで時代小説を読まずにいた方々、まずこの作品を読んでみてください。時代小説の入門として、この作品をオススメしたい。そんな一作です。
かつて政争に巻き込まれ、いいように使い捨てられて今は閑職に追いやられた男やもめの覚平は、再びある事件をきっかけに、藩の上層部に利用されてしまい、真剣での斬り合いをせざるを得ない立場に立たされる。
不器用な侍が、大事な人を守るため、命をかけて戦う姿を描いた中編時代劇。いかにもな文体と、藤沢周平的な世界観が、読者をあっという間に時代小説の世界へ落してくれる。
殺伐とした斬り合いがメインの作品であるが、その根底にあるのは、家族や知人、周囲の人への愛情であり、現代人には理解しづらい武家社会の矛盾に満ちた主人公の苦悩を、分かりやすいものへと書き換えてくれている。
時代小説好きならば、読んで損はなし。時代小説を知らない人にも、入門書としては申し分ない。