ぎこちない二人の恋愛と、千羽鶴の影に隠れた深いテーマ

田沢くんと花村さんのぎこちないながら微笑ましい恋愛模様……けれども決まって訪れる物語の転。そんな予定調和的に訪れる”転”は恋愛を盛り上げるエッセンス、無事解決することで二人の恋愛は盛り上がって……なんて考えていた私が浅はかでした、馬鹿でした! 許してください!!
皆さんと少し感想が違ってしまうかもしれませんが、自分がこの物語で一番衝撃を受けたのが”悪意”の扱われ方です。
この物語のテーマにもなっている千羽鶴。それは一つの親切の形ではあるけれども、穿った見方をすれば作り手の偽善でもあり、受け取り側が保管に困る代物。千羽鶴をこのような着眼点で追及していく様は前代未聞であり、浅はかな気持ちで千羽鶴をテーマにしていない作者様の覚悟が伺えました。
そして訪れた悪意に見舞われ、やり場のない悔しさ、怒りを抱えながらも、彼らが見つけた落としどころ。その迎えた結果にこそ作者様の思いが深く込められているように感じられ、一読者として深く考えさせられました。
また千羽鶴や富岡製糸場などに深く触れ、ラジオやピアノなどのちょいとオシャレな娯楽で彩る世界観に”純文学”を強く感じました。おそらく作者様は深くそういった小説を愛されているのだなと邪推いたしました。
あと忘れちゃいけないのが田沢くんと花村さんの初々しいやりとりです。
すぐに謝ろうとしちゃう、変なことで自己嫌悪に陥る、そんな謙虚さが初恋を思い出してズバズバ突き刺さります。物語中にあった”ほどいてはいけないようです”には鼻血が噴き出しました。あまりの可愛さに「なに言ってんだよ、こいつぅ」と小突き回してやりたくなりました。すいません。
穏やかながらも決して楽しいことばかりではない、当物語。初恋を知らない人にも、初々しさを懐かしみたい人にもオススメのお話です。一筋縄ではいかない田舎の世界観に、是非呑まれてしまいましょう。

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