ひと折りひと折りに込めた想いは、きっと誰かが明日を生きる力になる

この物語は、ボランティアで千羽鶴を作るヒロイン・花村さんと、その高校時代の同級生・田沢くんの恋を描いたものです。

読み始めてすぐ、花村さんの自己肯定の低さに気付きました。
家庭内で始まった悪意が新たな悪意を呼び、学校、職場、そして現在においてまで、陰湿な嫌がらせがついて回ります。
そんな花村さんの前に現れた田沢くんは、みんなが馬鹿にした彼女の千羽鶴を初めてもらってくれた相手です。
それまで常に自分を抑え、他人に迷惑を掛けないように神経をすり減らながら生きていた彼女は、この再会をきっかけにして、少しずつ自分の気持ちに向き合い始めるのです。

花村さんに向けられる悪意には激しい怒りを感じ、胸が引き千切れそうになりました。
けれども、彼女に手を差し伸べようとする田沢くんや、周囲の人々の姿勢に、何度も救われる想いがしました。

物語に登場する富岡製糸場やいろいろな文化遺産の描写も楽しく、まるで二人と一緒に見知らぬ街を歩いているような気分でした。

千羽鶴は、誰かの手に渡って初めて意義をなすものです。
千羽鶴そのものには、もちろん特別な力はありません。
でも、そこに込められた想いが伝わった時、それは誰かが頑張る力の助けになるのだと思います。
相手を思い遣る気持ちの大切さがそっと心に染み渡っていくような、素晴らしい読後感の作品でした。

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