十二月 : 心細さの極月(きわまりづき)
ふざけるな。
なんで今日に限って大雪で暴風なんだ?
おかげで彼女はまだ帰っていないじゃないか。
今日は二人で夕食を作り、買ってきたケーキを食べようって約束してるんだよ。
でも、この大雪と暴風のおかげで電車かバスが遅れているんだろう。
約束の時間に遅れる彼女じゃない。
真面目で、優しくて、僕のことをいつも大事にしてくれる女性だからね。
僕は約束の時間の三十分も前から、彼女のマンション前で立っている。
少しでも早く彼女の顔が見たかったから、雪が降り出す前に家を出た。
そしてここに到着した途端に、この天気さ。
クリスマスプレゼントで彼女に似合いそうなベージュのロングコート。
誕生日プレゼントで僕とおそろいの腕時計。
そして、婚約指輪とポインセチアの鉢植え。
全て、今日のために夏から考えて用意したものだ。
両手と肩に大きな紙袋を抱えて、雪に埋もれる電柱のようになったらどうしてくれるんだ。
まったく、神様に文句の一つも言ってやりたいよ。
帰り道を急ぐ人達がこちらをたまに見る。
ビニールで覆われたポインセチアの真っ赤な花が、雪の白さの中でひときわ目立っているからだろう。
この花を選んだのにはわけがある。
クリスマスフラワーと呼ばれているからだけじゃない。
メキシコでは「ノーチェ・ブエナ(聖夜)」と呼ばれてるみたいだし、花言葉が全て僕の気持ちを代弁しているからなんだ。
「祝福」「幸運を祈る」「清純」……そして「私の心は燃えている」
この日にプロポーズすると決めた僕には、もう、これしかないって思えたんだ。
……だってさ、勇気が欲しいじゃないか。
花言葉に縋ってでも、自分の気持ちを奮い立たせたいじゃないか。
ほんとは自信が無いなんて、態度に出したくないじゃないか。
だからポインセチアを選んだんだ。
十二月の別名「
こうまでしてるってのに、何だよ。
ホワイトクリスマスなんてのは、窓から眺めるからいいんだよ。
雪の量も少なく、風が弱ければ外でもいいよ?
でも、警報も出るほどの大雪じゃ、僕の心がいくら燃えていても溶けやしない。
――少しでも早く帰ってきてよね。ポインセチアの花が見えるうちに……。
僕たちのスケッチ 湯煙 @jackassbark
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