十一月 : 薄くてちっちゃな霜月

 ひいらぎの花って見たことはあるかい?


 葉っぱはみたことあるよね?

 やや堅い濃い緑の葉にトゲがあって、枝ごと切って玄関先に飾ることもあるよね。

 でも花を見たことある人は少ないと思うんだ。

 小さくて丸い白い花なんだよ。香りはキンモクセイに似てるかな。


 そのひいらぎの花が、玄関先の水たまりに落ちている。

 水たまりの表面にはうっすらと氷が張っていて、ひいらぎの花も一緒に凍っていたんだ。


 霜月の水たまりに張る氷は、まだ薄くてね。

 板ガラスのように持ち上げようとしても割れちゃうことが多いんだ。

 舗装されていない土にある水たまりに張った氷でも綺麗でね、見たことはあるかな?


 表面は土埃で汚れてるのは普通だけどさ。

 氷の中は、土の粒も混じっていないことがあるんだよ。


 この時期のそんな氷は、僕の中にある純粋な気持ちの塊みたい。

 嫉妬や、怒りや、惨めさなんかで、いつもいっぱいの僕。

 そんな僕の中に残った綺麗な気持ちが、水たまりに張った薄い氷と同じように思えるんだよ。溶けやすくて、折れやすくて、すぐ粉々になっちゃうけれどね。


 もちろん、こんなことは誰にも言えない。

 馬鹿にされちゃうだろうからね。


 ひいらぎの花が落ちて、薄い氷と一緒になっているのを見ると、その白い花は核のように思えるんだ。僕の気持ちの核のようにね。


 その核を与えてくれたのは君だよ。

 まだ小さいけれど白い気持ち。

 伝えられないほどのちっちゃなちっちゃな気持ち。


 でも、あるんだよ。

 見えるんだよ。

 そして僕にはさわれるんだ。


 霜柱の上を歩くたびに、サクッサクッと地面が鳴る。

 僕は水たまりに張った氷と一緒にひいらぎの花を持ち上げる。


 薄い氷は、僕の手の温度で溶け、そして割れてしまう。

 でも、白い花は溶けずに残るんだ。

 氷が割れてもずっと触れるんだ。


 まだ割れちゃう氷と、ひいらぎの花ほどの僕の気持ち。

 だけど確かにあるって判る。


 ――伝えるときには、どんなモノになっているだろう?

 

 

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