十月 : 刻み込みの神無月
近所のホテルでお茶会があったのか、和服姿の女性が並んで駅方面へ歩いている。車道を挟んで歩く僕は、その人波の中に君を見つけた。
ホテルから続く道の向こう側には、真っ赤な紅葉と、その隙間からは夕陽が見え、小豆色の和装で微笑む君の背後は赤一色だった。白と銀の菊の模様が帯から裾にまで広がり、うっすらと化粧した清楚な面持ちの君にお似合いだった。
土地の神様が皆、出雲へ行って居なくなる月だから神無月というらしい。
その話が浮かんだ僕には、君は出雲から戻ってきた神様のように見えた。紅葉と夕陽が君を彩り、艶のある華やかさもちょっぴり感じたよ。
この季節の赤はどこか冷たく、そして清々しい。
気持ちが引き締まる赤だ。
その赤い景色の中で、小豆色の穏やかな君の姿が一人だけ僕の目に焼き付いたんだ。
君の姿が絵画のようにくっきりとね。
他にも同じような姿の女性が大勢歩いているのに、どうしてだろうね。
そして僕の目は君から離れられないでいる。
隣の女性と口元を明るく微笑みながら話す君は、きっといつもの君だろう。
何を話しているかここからじゃ判らないけれど、いつも通り、大人しく丁寧に伝えてるんだろうな。会社での君は、どんな話題でも、誰と話すときもそうだものね。
……そうだね。
もう学生じゃないんだから、焦っちゃいけないよね。
でも、今気付いた気持ちが本物なのか判るまで、もう少し時間が必要だけど、この
――夕陽と紅葉と、そして菊に包まれた穏やかな君を……
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