第7話
帰りは下りなので、飛ぶように歩いて行く。三田村が先頭になり、さっさとくだっていく。真簾沼を抜け、ラッセルで苦労した雪原も、すでにラッセル跡があるから、歩くのはらくだ。三田村は私の苦労なんて知らずにさっさとラッセル跡を下っていく。万計沼にもやがて到着した。
「休もうか」
と私がいったが三田村は
「気分がいいから歩きたい」
という。そのままペースをまかせることにした。
帰り、勢いよく歩く三田村を見て、滑らなければいいのだけど、と思った。果たして彼は見事に滑り、十メートルほど腰で移動していった。怪我もなく、本人は笑っている。笑い事じゃないんだよ、はしるなって、と私はおもった。
その後は快調に登山口まで降りることができた。足が痛くなってしまい、登山口の川で靴下を脱いで足を冷やした。驚くほど冷たい、当たり前でそれは溶けたばかりの雪解け水だからだ。すぐに足を引っ込めた。三田村は靴下だけ取り替えた。
帰りの自転車も下りなので、素晴らしい速度で市内に向かっていく。市街はたしかに難渋したが夕方には二人とも帰宅した。
翌日、私は筋肉痛でほとんど動けなくなってしまった。三田村が私のアパートに来て、「ぼくは下りが得意なんだ。足も痛くない」と主張する。
それは痛くないだろう、君はラッセルをしてないからだよ、といいかけて黙った。三田村はテレビが見たい、といって勝手にテレビをつけた。
二人でテレビを見ながら、昨日のことをあれこれと話した。三田村とは何回か登山に行った。
学校を卒業後、彼は北海道に残り私は本州で働いた。親友ではあったが、距離が離れて時間がたつと、連絡をとることもなくなってきた。いつも彼の笑顔をおもいだす。
完
2017/09/14 初稿
2017/09/20 改訂版
空沼岳 北海道の春 いわのふ @IVANOV
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