第5話

 万計沼から目指すのは真簾沼である。距離はたいしたことはないが、登りは続く。まず、登山道をあるいていって、私は驚いてしまった。「しまった、これ冬山だよ」声には出さなかったが、カラマツのこずえが低く見えることから見て、積雪は最大で十メートルはあるかもしれない。


 かんじき、という雪に沈まないようにする道具があるが、それが必要なほどだ。一歩ごとにズボッと足が雪にはまり込む。三田村はそんなものと思っているみたい。そのうちにそれどころではなくなってきた。ラッセルをしないと前に進むことができない。ラッセルとは小刻みに足を前に進めて雪を踏み固めていくことだ。体力をたいへんに使う。


そのうちに下ってくる人が見えた。挨拶をして話をした。

「まだ、雪ありますか」

「そうだね、本格的な雪解けはこれからだね。そんな靴で大丈夫なの」

「あ、いえ」

 私は答えに窮した。


 大丈夫とは言えない格好だ。防寒着はあるが、もし天候が崩れたらとてもまずい。それほど深い山ではないのですぐに帰ることはできるが。しまった、これから尾根までラッセルか。出会った人もかんじきを履いていた。


 登り坂は緩やかになってきたが、さらに雪は深くなり、ラッセルだけで大変になってきた。三田村には前を任せられない。すぐにバテてしまうだろう。真簾沼までの距離は近いはずだ。もう少しの辛抱。


 とても長い時間ラッセルをしていたように思うが、たいした時間ではなかったようだ。林間から真簾沼が見えてきた。三田村はまだ気づいていない。下を見ながら歩いているから。急に景色が開け、岩だらけの湖畔があらわれた。

「三田村、ついたぞ、見ろ」

「おー。すごいね。こんなところがあったんだ。それにしてもしずかだねえ」

「まあ普段でも静かだけど、雪がたくさんあるから音が余計聞こえないのさ。休んでいこう」

「そうしよう」


 二人は景色に見とれていた。本当にこんな景色が目の前にあるとは思えない。


 大きめの石や岩がごろごろと湖畔にあり、水辺には小さなエゾサンショウウオが泳いでいる。孵化したばかりなのかもしれない。快晴で暑くもなく寒くもない。対岸にも岩が見え、そこから植生が広がり、湖面に映っている。実にいい気持ちになってきた。

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