断捨離

脳幹 まこと

断捨離


 最近ね、断捨離を始めたのよ。

 え、断捨離を知らないですって。まあまあ、ちょっと前に流行ったじゃない。

 要するに不要なモノを捨てて、余計な執着から自由になることよ。いいわよ、何もかも身軽になって。

 私も始めてからすぐに思ったわ。これは快適だってね。

 大体、こんなにも時代が進んでいるのに、昔のしがらみに囚われ過ぎなのよ、私達人間は。

 科学技術は進歩して、パワードスーツや万能細胞が完成して久しいのにも関わらず、どうして元ある肉体にこだわるのかしら。

 それこそ、余計なモノよ。

 お偉い長官や人権団体の皆さまは「ヒトの尊厳」だなんて言っているけれど……もはや、生物が本来持つチカラなんて、スペアにすらならないわ。

 最初は骨から始めたの。人工骨格の方が、軽いし丈夫よ。経年劣化もしないし。でも骨って意外と、体重の割合としては少ないのよ。そういう点では少しがっかりだったわ。

 それから内臓を少しずつ。断捨離のコツは、いっぺんに片付けようとしないことね。負担が大きいから。こっちは効果てき面だったわよ。やっぱり重かったみたいね。これらは万能ハードウェアに差し替えたわ。ちょっと値は張るけど、全部の臓器の役割を一手に担ってくれるのだから、文句は言えないわね。

 最後に血液。これらも不要ね。今や三日に一回、電気を補給するだけでいいのだから。無駄に部品を錆びつかせる体液なんて、効率が悪いわ。

 ええ。これで私の体重の八割が無くなったわ。本体も随分小さくなったけれど、生活するのに支障はないわ。

 ホログラムでいくらでも見てくれは変えられるし、そもそも、このVR全盛の世界じゃあ、外見自体があまり意味のない概念だと思うしね。


 ああ、そういえばね。私、今日も捨てようと思っているのよ。

 ずっとずっと捨てようと思ってたけど、未練があってどうしても捨てられなかったものよ。ようやく決心がついたわ。

 たった、二一グラムの些細な物体よ。この理路整然とした世界には、最も不要なモノね。


 ええ、全くもって要らないわ。魂だなんて不確定なモノ。

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