綺麗なオレは好きですか? 隻斗×薫

「ねぇ、そんな無駄な努力止めたらぁ?」


「どういう意味よ」


「だってノーメイクのオレの方が何倍も可愛いでしょ?」


隣でにっこりと笑ってやると折角化粧でこましになった顔が般若の形相に変わる。

その事に満足して立ち去った。


また別の日


「ねぇ、癖残ってないわよね?」


「いつも通りだと思うけど?」


「安心しなよ。そんな努力してもオレには負けてるからさ」


言い返す事が出来なかった彼女達が醜く表情を歪めて睨み付けて来るけれど怖くも何ともないと踵を返した。オレに言い返せる人間なんてもう残っていやしない。つまらないね。



「ねぇ、螢。ここも大して面白くはないね。これならまだ父さん達殺した時の方が楽しかったよ」


「ふふ、見せしめにしたのが効き過ぎたんじゃないですか?まぁ、俺としては薫が嘗められるのは気に入らないので良い結果でしたけどね」


12の冬、両親を血祭りに上げたオレを保護した上の兄は証拠隠滅をはかりその足でオレ達を連れて組織入りを果たした。やる気のある兄は早々に上司を追い落として幹部となりオレ達を部下として取り込んだ。実力主義のこの世界、下に見られるのは許容出来ず子供だと馬鹿にした人間をメスで切り刻み晒した事によりオレを馬鹿にする者は居なくなった。

ついでにおもちゃにして遊べるような人間も居なくなってしまった事がつまらない。


「あーあ、つまんなぁい」


「今日は何をしてたんですか?」


「さっさと仕事が終わって暇だったからオレより可愛くないのに無駄な努力してる女達に現実をみせてあげたりとか?だってオレの方が可愛いでしょ?」


パソコンに向かう兄の膝に座ったまま気まぐれに抱きついていたけどそんな事を言うから不愉快そうな顔を思い出して少しだけ愉しい気分で笑った。


「ふふ、もちろん薫は可愛い弟ですよ」


「ねぇ、螢。オレにも何かおもちゃちょうだい?」


「おもちゃですか。そうですねぇ、最近面白い子が入隊しましたよ。会ってみます?」


甘やかすように髪を撫でる手に笑い、続いた言葉に顔を上げた。

新隊員の面倒を見ろとかだったら兄の読み違いも良いところ。オレというものを理解している兄にしては珍しい。


「母親を死の直前まで追いやったという薫と年の近い少年です。保護したのは良いんですが反抗的過ぎるので大人しくさせてくれます?」


「そういうこと。気に入らなかったら遊んであげていいよね?」


「もちろんです。今はC塔の自室に居る筈ですよ」


退屈していたオレは螢の膝を降りて早速行く事にした。母親を殺し掛けた状況や思考にも興味が有る。オレの場合は完全に殺したけれど、生き延びたという事は詰めが甘かったのか決意が鈍ったのか。

そういう人間なら特に面白味は無さそうだから面倒なら始末すれば良い。



「ここか。ほぼ隔離状態だねぇ。新人の少年居るー?」


事前に調べて来た部屋は他隊員が使っている部屋もない離れた場所に有った。

勝手に扉を開け中に入り呼び掛けると返事の代わりに組織から入隊時支給されるナイフが飛んで来た。素人だし検討違いのところに飛んで行ったけど。


「勝手に入って来んじゃねぇよ。刻まれたいのか」


「ヤれる訳な……」


「ビビってんなら帰れ…」


「…あっはははは!みつけた」


ベットから起き上がりこちらを睨みつける彼を見た瞬間溢れ出した過去世の記憶の中にそれは居た。

あぁ、お父様。とんだ愚行を冒したものだね。オレに彼を与えてくれるなんて。

2度と貴方の愛し子はそちらには戻らない。オレは貴方を思い出した。


「狂ってんのかよ。遊びなら他所でやりやがれ。糞汚い笑いでも浮かべて漏らしてりゃいい」


そう言って部屋から追い出そうとオレに伸ばされた手を愉しい気分で見つめ捕まる前に抱き着いた。


「あっは、このオレを忘れるなんて良い度胸だねぇ。お仕置きしてあげなきゃ」


でもその前にオレの傍に戻って来た事を褒めてあげなきゃ。


「っなんだよ!だから出てっ…」


文句を口にしようとしたのを遮り抱き寄せて口付けた。油断していた彼はあっさりとオレを受け入れたからそのまま舌を滑り込ませた。オレの知る彼の魂らしくなく荒れているけれど特に薬の味はしないから産まれ落ちた環境が歪めたんだろう。


彼との初対面はオレにとっては僥倖で、彼にとっては煩わしい日常の始まり。

思い出した事で離れてあげる選択肢は捨てたオレにまとわりつかれ、機嫌を損ねれば痛めつけられる。それでも最終的にはオレの手中に落ちた。



「そういえば薫。僕達が出会った頃の事覚えています?」


「覚えてるけどなぁに?」


「貴方あの時みつけた、って言いませんでした?先日ふと思い出したんですよ」


あれ程荒れていて反抗的だった彼は次第になりを潜め処世術のつもりか落ち着いた口調で話し常に笑顔を浮かべるようになった。けれど本質は性悪のままだと知っている。プツっと行けばエメラルドの瞳と共に再び姿を現す。


「言ったねぇ。だからオレに存分に遊ばれたでしょ?」


これも別に真実は言わなくて良い。だって2度と手放すつもりはないんだから。


「当時貴方が悪魔に見えた事が何度かありましたよ」


「子供の頃の可愛いオレも今のカッコイイオレも好きでしょ?隻斗」


「まぁ、だから今も一緒に居ますしね」


答えに満足して抱き着き笑みを浮かべてから口付けた

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閉ざされた心 短編集  Baum @Baum0909

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