帰り方を探そう 2

 生まれてこのかた、自分を『かわいい』とか、容姿に対してポジティブな感想を言ってくれたのは、じーちゃんとばーちゃんだけだった。父も母も、自分に似た部分を持つ娘の私に『かわいい』とは、言ってくれなかった。親に言われないってよっぽどじゃない? と、思ったけど、両親の顔や、自分の顔をしみじみと見つめて、まあ、ギリギリ『かわいい』はあっても、『美人』とか、一生縁のない言葉だよな、と、思っていたのに。


 色黒ではないけれど、短い眉毛、薄い唇、全体的に凹凸が少ないというか、のっぺりしていて、幸が薄そうというか、印象に残りにくいというか、『へのへのもへじ』というよりは、『へへへへくへじ』みたいな顔なのに。


 社会に出る時に、印象の薄い顔なら、かえって化粧生えするかな、と、がんばってはみたけれど、塗りすぎてケバケバしくなってしまい、どうにもうまくいかず、ファンデーションを塗って、眉毛を書き、肌の色に近い口紅をつけただけにしたら、え? それ、すっぴんじゃないの? みたいな顔にしかならなかったというのに……。


 これは、もしかしてあれ? こっちの世界基準でいうと、美人とか、そういうやつ? もしかして、こちらの世界だと、絶世の美女だったりする? だったら、もう、ずっとこっちの世界にいようかな……。


 私が、にやにや笑っているにも関わらず、ゴリさんは真っ赤になったまま固まっていた。


 ちょっと、そんな風な態度をされると……こっちも、意識しちゃう、じゃ、ない……。


 それまで、じーちゃんとばーちゃんの昔なじみさんくらいの感覚でいたゴリさんが、急に男性に見えてくるから不思議だ。ここがどこか、とか、ゴリさんがどこの誰か、とか、ほとんどわかっていないのに、ばーちゃんの知り合いというだけで、なんだか親近感がわいてしまうというか。


 そもそも、ゴリさん、顎は割れてるけど、なんちゅーか、彫りの深いイケメンなのだ。金色髪に甲冑なんて、ちょっと王子様みたいじゃなかろうか。


 ああ、そういえば、このあいだテレビでやっていた○ィズニー実写版の王子様だって顎は割れてたっけ。


 ……まつ毛、長いなー。背も高いし。あと、声がいいんだよね。なんでか通じている言葉が、低くて、ちょっと甘さのある感じの。


 なんというか、久しぶりに自分が色気を出しそうになった事が災いしたのか、唐突に音がした。それは、(多分だけど)パラちゃんが、外敵を威嚇する為の声。ああ、声、出たのかー。


 ゴリさんは驚いて外へ出て行った。私もそれに続いた。

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