おじいさんとおばあさんとゴリさん
「三条氏とご夫人は、突然現れた私に、とても優しくして下さいました」
そう言って、ゴリさんは遠い目をした。
「ん? という事は、子供の頃からゴリさん?」
「当時は幼かったためか、『ゴリちゃん』と呼ばれおりましたが……」
そうなんだー。子供の頃からかー。顎割れ。ゴリさんには悪いけど、金髪の美少年で想像していた私は、急いで脳内のイメージを、今のゴリさんに近い顔で修正した。
「ほどなく、父が迎えに来てくれましたが、父を見てご夫妻はたいそう驚かれまして」
「ゴリさんのお父さんは、パラちゃん……じゃ、なかった、あの、表で待っている生き物にのってきたの?」
「馬の事ですか? ええ、そうです、辺境騎士はあれを乗馬にしています」
うま……そうか、あれ、馬なんだ。なんか、ゴリさんの言う『お茶』と、私の言う『お茶』が、微妙に似て非なるものだったりする可能性があるのか……。というか、本当に、ここはどこなんだろう。おじいちゃん、おばあちゃんが時折ゴリさんに会ったというのは何となく理解できた。じゃあ、戻り方は? どうやったら、ゴリさん言うところの、私達の世界に戻るんだろう……。
「ご夫妻は、父の馬にとても驚いていらしたようですが、迎えが来た事に安堵されて、私は父に連れられて、家に戻りました。後日、再び三条ご夫妻にお会いしたくて草原をさまよってみましたが、どこにもこのお宅はありませんでした」
「なかった……、という事は、その、霧の夜に、突然現れて、その後はもう、無かった、って事ですか?」
私が尋ねると、ゴリさんは、力強くうなずいた。
「そうです、昼間、太陽が照っている時、再び草原を探しても、どこにも」
「ですが……、私は、再びご夫妻にお会いする事ができました。始めてお会いした夜と同じように、霧の深い夜の事です」
「つまり、この家……というか、お店が出現するのは、霧の深い夜だけ、という事ですか?」
ゴリさんは、少し首をひねって、考えこんでから、もう一度言った。
「そうですね……、このあたりは、あまり濃霧が発生する事はないのですが、私がここを訪れる時は、必ず濃い霧がたちこめています」
という事は、ゴリさん側の世界で、この傘屋の発生条件は『夜』と『霧』なのか……。現れたり消えたりするという事は、何かしらの方法で、『私のいた世界』に戻る事はできるのかな……。
「ゴリさんは、この家……というか、お店が、『消える』ところって見たことない?」
「私は、いつも、こちらの『お店』が存在しているうちに失礼させていただいているのです。ですから、現れたり、消えたり、多分、そうしているのだろうとは思うのですが、実際に現れる瞬間や消える瞬間は、見たことがないのです……」
ものすごく、申し訳なさそうにゴリさんが言った。私が私の知らない場所で出会ったこの人は、とても優しい人のようだ。ゴリさんが私に優しくしてくれるのは、きっとおじいちゃんとおばあちゃんがゴリさんに優しく接してくれていたおかげなのだろう。
情けは人の為ならず、というのは、こういう事なのかな……。ばーちゃん、じーちゃん、ありがとう。
「そうですか、いや、貴重なお話ありがとうございます」
私は深々と頭を下げた。
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