ここはどこ、私は誰
ゴリさんに、色々質問したかったが、自分でも今の状況がよくわからない。
『祖母の傘屋で店番をしていたら、パレオパラドキシアに乗った顎割れ金髪男性に会った』
って、できの悪いランダム単語ジェネレータのようだ。
スマホで撮影してインスタに上げたら、「いいね!」が、沢山つきそうな、フォトジェニックな組み合わせだが、私はインスタのアカウントを持っていない。
……気が遠くなりそうだ。
「未夜子さん?」
「……あー、すみません、ちょっと逃避してました」
「えーっと、ゴリさん? と、お呼びしても?」
「ええ、光栄です」
そう言って微笑むゴリさんは、どことなく気品がある。(顎は割れているが)
「繋がる、というのはどういう事ですか?」
「未夜子さんのいらっしゃる世界と、私どもの世界が『繋がる』という意味です」
「……世界が、繋がる?」
どういう事だろう。切れたり、繋がったりするものなのか、世界って。
「そうですね、私も上手に説明できるかわかりませんが……、まず、ここは、日頃は何も無い草原なのです。私は、国境警備の騎士の一人ですが、警備塔から常に周囲を見回しています。そうすると、霧が濃くたちこめて、何もないはずの草原にぼんやりと明かりが灯る事があるのです、そんな時に、明かりを目指して来ると、三条さんのお店が出現しています」
「あれ? でも、さっき、子供の頃から面識があるって……」
「始めてこの店にお邪魔したきっかけは偶然でした。私の父も、国境警備の騎士でした。私の一家も、砦に家を持ち、子供の頃からこのあたり一帯は私の遊び場だったのです」
……これは、長い話になりそうだな、と、思った私は、ゴリさんを店内に招き入れ、カウンター横の上がり框にかけてもらった。パラちゃんは、おとなしく、店近くの草を食んでいる。
冷蔵庫を開けると、いつも通り使えた。
……電気、どうなってんだ、と、一瞬思ったが、私がいくら小さな脳みそであれこれ考えたところで理由がわかるはずもないので、それについては考えない事にして、冷蔵庫から500mlのペットボトルを二本出して、一本をゴリさんに渡した。
「ありがとうございます、このお茶をいただくのは久しぶりですね」
おばあちゃんが前に出した事があるのだろう。ゴリさんは、慣れた手つきでキャップをはずし、いただきます、と、言ってから、口をつけた。
互いにごくごくとお茶を飲んでから、私はゴリさんに、話の続きを尋ねた。
「あの日、私は父にひどくしかられて、泣きながらこの草原を歩いていました。夢中でさまよっているうちに、霧が深くなり、進む事も戻る事もできなくなってしまいました。日が暮れて、どんどん心細くなってきたところで、このお店がぼんやりと浮かび上がったのです」
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