どうか、もう少しだけ……。

 ゴリさんに会いたい? と、ばーちゃんに聞いたら、まー、そのうちまた会う事もあるでしょー、と、いたって気楽な様子だった。


 店に戻ると、ゴリさんが、午後の再放送ドラマを泣きながら見ていた。パラちゃんも、顔をぐしゃぐしゃにして泣いているゴリさんを心配そうにして見ていた。


「あっ! これは、お見苦しいところを!」


 あわてて涙を拭いて、ゴリさんが取り繕おうとしたので、あー、いいです、そのまま、最後まで、どうぞ。と、私はタオルを持ってきて、渡した。


 ゴリさんは、TVに視線を戻しながら、涙でぐしゃぐしゃになった顔をふき、再びTVに没頭した。


 横から見ている感じ、若干ブラック気味な科学捜査研究所のドラマのようだ。午後の再放送という事は、そろそろ終わる頃かな、と、私はちらっと時計の方に視線を泳がせ、確認してから、戸口に戻り、『準備中』にしておいた札を『営業中』に戻した。


 臨時休業の張り紙を剥がして、まるめてゴミ箱に捨てて、カーテンを開けて戻ると、ドラマが終わった余韻にひたるゴリさんがいた。


「……いい、お話でした……」


 その後、あの女性のチームは、チームワークが素晴らしい、とか、彼女と、捜査員の彼の距離感が絶妙である点をとうとうと語られた。既に何回も再放送された、私もよく知っている内容の話だったけれど……。


「……しかし、犯人は無事捕まるのでしょうか……」


 ぽつり、と、ゴリさんがつぶやいた。そう、普段は一話で完結するのだけれど、さっきゴリさんが見ていた話は、二話続きになっている。殉職した刑事を殺した犯人は誰? という強いヒキで終わっているやつだ。


 多分、この続きは、明日の同じ時間帯に再放送されるのだろう。


「おおっ! そういえば、三条夫人には無事お会いになれましたか?」


「うん、元気そうだった、で、わかったよ、『繋げる』方法が」


「……では、私は、帰れる、の、ですね」


 そういうゴリさんは、少しだけ寂しそうだった。『帰る』ことへの寂しさか、ドラマの続きが見られない事の寂しさかは、よく、わからなかったけれど。


 日が暮れるまであと数時間。ゴリさんは身支度をして、日暮れを待った。

 

 今日に限ってお客があったらいやだな、と、思っていたけれど、その心配は杞憂に終わり、あたりはゆるやかに暗くなってきた。


 通りから、パラちゃんの姿が見えると困るので、札は『営業中』のまま、カーテンをひいて、外の様子を伺う。


 霧があたりを覆いだし、そして、周りが見えなくなった。


 ガラス戸を開けて、外が、アスファルトではなく、草原に変わっている事を確かめてから、パラちゃんを表に出し、ゴリさんがその背に乗る。


 昨日のコアラの姿は無かったけれど、またいつやって来るかはわからない。急がなくてはいけない、と、わかってはいるんだけど……。


「未夜子さん、お世話に……なりました」


「ゴリさんも、ありがとう、助けて……くれて」


「……危険ですから、もう、『繋いで』はいけない、と、言わなくてはいけないのに、……ダメですね、私は、また、貴女に会いたいと思っています」


「……私も、会いたいよ、また、ゴリさんに……会いたい」


「でも、私の方から、貴女に会いに行く術はないのですね……」


 寂しそうに言う、ゴリさんは、なんだかかわいくなって、思わずあたまをいい子いい子したくなったけれど、しなかった。


「……また、会いに来てもいい?」


 私が、そう言うと、ゴリさんがぱぁぁぁぁっと顔を明るくした。


「ですが、危険生物が……」


「ゴリさんが、助けてくれるんだよね」


 私が言うと、ゴリさんは力いっぱいブンブンとうなずいた。

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