お見舞い
元の世界に戻ってこられたのはいいけれど、今度はゴリさんとパラちゃんを連れて来てしまった。
ゴリさんはびっくりしているし、パラちゃんは怯えてはいないけれど、きょとんとして、店の中をうろうろしている。
「未夜子さん、これは……」
「多分、『繋いで』いたのは、この札の力だと思う」
私は、ガラス戸にかけた札を指でつまんだ。細かい法則はわからないけど、少なくとも、『夜』『営業中』のままにしておくのがいけないんじゃないかと思った。
「ここで、もういっかい『営業中』にして、向こうへ行けるかはわからないんだけど、すぐに戻したら、またあの大きな生き物がいそうな気がするから、少し時間をもらってもいいかな?」
ゴリさんも納得してくれたみたい。
もちろん、向こう側に行く法則がちゃんとわかっていなから、というのもあったけど、私が、ゴリさんと一緒にいたいから……、だというのは、ナイショだ。
幸い、パラちゃんはおとなしく繋がれてくれて、ゴリさんにはおじーちゃんの浴衣を着てもらって、休んでもらう事ができた。
男性と一夜を共にする、というところにドキドキする部分はあったけど、病院の面会時間が来たら、すぐにこの事をばーちゃんに聞きに行かないと、という思いの方が強かった。
夜が明けて、面会時間開始もそこそこに、私はばーちゃんの病室にすべりこんだ。お店は『準備中』のまま。念の為、私が下手くそな字で書いた、『都合により、本日臨時休業』の、張り紙も貼った。
ばーちゃんをゴリさんに会わせてあげたい気持ちもあったけど、パラちゃんだけを残しておくわけにもいかないので、ゴリさんと一緒にお留守番してもらっている。
ゴリさんは、テレビに驚きつつも、こちらの世界のものが興味深いのか、パラちゃんとおとなしくテレビっ子をしてくれていた。
「……あんた、ちゃんと札を入れ替えなかったでしょ」
病室に入るなり、ばーちゃんが言った。すごいな、なんでわかるんだろう。
「よく、わかったね」
「ろくすっぽ見舞いにも来なかった孫が、朝一に来たんだもの、ピンとくるさね」
ばーちゃんは、骨折して、動けない以外はピンピンしているようで、病室に入った時も、携帯ゲーム機でパズルゲームに興じていた。
ばーちゃんは、白髪は染めているし、肌もキレイだ。とても七十代には見えない。五十代か、下手をすると四十代に見えそうだ。
「で? 何かあった? ゴリさん、来ちゃった?」
「……うん、来た」
「あたしもねー、随分会ってないけど、もうすっかり大人になっちまったんだろうねえ」
懐かしむようにばーちゃんが目を細めた。
「つか、何よ、あの札」
ばーちゃんがちっとも椅子をすすめてくれないので、私は勝手にベッドの横にあったスツールに腰掛けた。
「あれね、じーちゃんが山でひろってきたのよ、重さといい、色合いといい、こう、ちょうど札にするのにいいサイズ感っての? 文字はあとからじーちゃんが彫ったんだけど、ちょっと洒落てるだろ、営業中プレートなんて、きょうび、百均でも買えるけどさ」
ばーちゃんがドヤ顔で言う。しかし何の説明にもなってねぇ……。
「よくわかんないけど、あの札のせいっぽってのは確かなの?」
「仕組みはわかんないけどね、やー、最初はビックリしたわー、日が暮れて、札を『営業中』にしたまんまだと、なんだかおかしなところに行っちゃうって怖いよねー、ちなみに、昼間、『準備中』にした場合は変化ナシだった。『日暮れ』で、『営業中』でないとダメみたい」
そっか……。じゃあ、また、日が暮れて、札をひっくりかえさずにいたら、むこうと『繋がる』んだ……。
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