第13話 後日談

 「異世界のリアル」最新回とその前の回への反響は大きかった。その反応で多かったのは二つだ。

 

 「異世界への夢を何故壊した」

 「何故、元地球人を助けなかったのか? 」

 

 新時代TVの電話はパンク状態だったという。


 「HIBIKIの方針は一貫していまして、異世界の事実を伝えるだけで干渉しないのです。皆様からのご意見はHIBIKIへ届くよう努力します。申し訳ありませんが、それ以上は私共にはお答えできません」


 当然ながら、TV局側はこれしか返せなかった。しかし、視聴率は相変わらず高く、局側の目的は達成されていた。


 この状態を渡瀬から聞いたひびきは微笑んで「そう」としか答えなかった。


 「姉さん。これで異世界転生を希望する人減るだろうか? 」

 「さあね? でも、慎重にはなるんじゃないの? 」


 あれからあの星へは行っていない。人間種がクリーチャー達を制し覇権を握ろうと、それはひびきあたるにはどうでもいいことだ。彼らは彼らで、彼らの世界のことわりに沿って生きていくだろう。それでいい。


 「で、他の転生先でも続ける気なんでしょ? 」


 ひびきはじっとあたるの目を見ている。少し間を置いて口を開いた。


 「続けるでしょうね。今回の世界よりもう少し転生者にとってマシな世界かもしれないし、もっと酷い世界かもしれない。できるだけ多くのケースを伝える必要はあると思うの」

 「俺達の身体が何とかなるまでは仕方ないから協力するけど、俺はできるだけ早く平凡な生活に戻りたいよ」


 ――それについて報告なのだが、例のダミーを調整して、そこにこの身体から必要な情報を移す方法で何とかなるだろうということだ。


 「俺は普通の人間と同じようになれるのかい? 」


 ――ああ、そうなるだろう。だが……実験と検証にしばらく時間がかかる。


 「どれくらいかかるの? 」


 ――短ければ数年。長ければ十年ほど。


 「数年ならいいけど、十年かぁ……」


 ――仲間達も、君達の将来にできるだけ影響のないよう努力しているのだ。だが、申し訳ない。


 「いいわよ。永久にこのままじゃないって判っただけで」

 「まあ、そうだね」

 「とりあえず、お金には困らなくなったし」

 「そうだ。今のところどうなっているんだい? 」


 興味津々にあたるひびきの顔を見る。


 「製作料諸々合わせて、五時間のデータ量で五千万円ね。前々回は二十時間だったから二億円。今回は十時間だったから一億円ってとこかしら。編集等頼んでる渡瀬くんのところにけっこう持ってかれてるとは思うけど、こちらは諸経費さほどかかってないから、今のところはこの程度でいいわよね」

 「俺、編集勉強しようかなぁ」


 想像していた額より少ないと感じたのか、あたるはTV局と直に取引きできればと考えているようだ。 


 「勉強するのはいいけれど、渡瀬くんところと手を切るつもりはないわよ。欲を出さずに私達は生データを渡すだけに留めるの」

 「まぁ、このままいけばこの先平凡に生きるための貯金できそうだし……いいかぁ。で、次はいつ行くの? 」

 「あら? 収入が見込めると判ってやる気になったのね? 現金だわ」

 「当たり前じゃないか。セコセコ働かなくても奈美恵と暮らしていけると判ったんだ。そりゃやる気にもなるさ」

 「あんたもホント変わらないわね。奈美恵ちゃんのことしか頭にないんだから」


                    §


 「異世界のリアル」

 最初の放送から二年が過ぎた。

 終了の予定はまだどこからも聞こえない。




                   【了】

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知って欲しい異世界のリアル~転生希望者を減らすために~ 湯煙 @jackassbark

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