第2話 俺はクールで媚びやしないぜ
『こちらは、エルフのアキュータ国です。よその国からいらしたのですか?』
泉にいたエルフさんは、戯れをやめ、殆ど集まったではないか。
俺達、変わった服装のにわかエルフさんだから、好奇の目を向けられているのだろう。
ネココ先輩はファンタジー好きだからか、喜んでいるな。
笑っていると可愛いのは流石だ。
むっふーん。
「あはは。セーラー服と学ランです。我が国の若者が着る制服です」
『おー、若者の制服。素敵です』
俺だけ警戒しているのか?
俺だけ、浮いている気がする。
どうしてだろうか。
『作家とは何ですか?』
「私は、ライトノベルで、エルフさんも勿論描かせて貰っています」
ぺこりとお辞儀した。
『おおー。ライトノベル』
エルフさんはざわついた。
『私達は、ライトノベルで活躍しているのですか』
「そうなんですよ。華麗に活躍です」
エルフさんは賢いのだな。
言葉が通じる。
いや、待てよ。
俺達エルフさんではないか。
だから通じるのか。
普通に話してみよう。
「俺は、純文学一本で。いつか賞を取りたいと思っている。エルフさんは、ネココの作品で知ったけれども、登場人物は現代人に着彩したのが多いな」
簡単な自己紹介でいいだろう。
頭は下げておくべきだな。
『純文学? 私達はいないのですか』
皆、首を捻っている。
「……しまった」
パパラパラー!
何だこのゲームチックな音は?
ネココ先輩から聞こえたぞ。
「大丈夫だよ、イヌコ。今の私ならできるよ。転機が舞い降りたみたい。必殺スマートフォンです」
おおー、ネココ先輩にやる気がみなぎっている。
「皆さん、私はちょっとスランプ気味だったのですが、素敵なエルフさんのお陰で何か書けそうです。後で読んでいただけますか?」
ネココ先輩がスランプ気味だったって?
確かにノートパソコンを打つ音は静かだったが。
『ライトノベル!』
『ライトノベルのネココ!』
エルフさんの囁きが明るくなったな。
ネココ先輩、期待されて、羨望の眼差しを送るよ。
「お楽しみいただけるようにがんばります」
異世界ペンネーム、ネココで、一作書き始めたのか。
ネココ先輩がスマートフォンをタップする。
フイフイ……。
スッスッ……。
文芸部室にいる時より指が軽い。
どんどん書けている。
アイデアも湯水のようなのだろうな。
俺は、羨ましいだけだな……。
スランプなのは、俺もだ。
「できました! 会心の作です!」
ピンクのスマートフォンを高々とかかげ、会心の作と言い切りますか。
一体どんな作品か、美味しそうだな。
『ライトノベル。メルシー(ありがとう)』
ネココ先輩のスマートフォンを手に取り、皆で回し読みか……。
楽しそうだな。
俺は何をしているのだろう。
誰とも話もしない。
『おおー。ネココ!』
「やった……。手応えあるわ。私、スランプから抜けられたのかしら」
スランプから脱出できただと。
俺もスランプなのに。
こればかり考えても仕方がないな。
「ネココ先輩、何を書いたのか教えてください」
「えっと、それは……。ちょっと勘弁して欲しいな。かなり恥ずかしいので」
ごめんなさいと俺に手を合わせるが、譲れないな。
「スマートフォンのを俺に読ませてくれませんか」
「いやー。だめよ」
「タイトルだけでもお願いします!」
ネココ先輩は後ろを向いてしまった。
しつこかったか。
「わ、分かった……。『ふた房のたわわな果実』なんだけど」
「なんだ、官能小説か。だから恥ずかしいのですか」
鼻で笑うわ。
おっと、不遜だったな。
「ちょっと違うよ。でもお子さまにはダメだよ。イヌコはお子さまだから、ダメ」
「何でですか。先輩の会心の作を読ませて欲しいのですけれども」
「しつこいぞ、イヌコ。いつものクールさはどうした。珍しいな」
『フフフ』
『クスクス』
とがった耳が震えている。
「ほら、会心の作がエルフさんに受けているではないですか。俺もスランプなので、読みたいですよ」
はっ。
スランプだったと明かしてしまった。
「純文学、スランプだったの? いつも同じ行を目で追っていたのはこのためか……。分かったわ」
ネココは、エルフに礼をして、スマートフォンを貸して貰った。
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