第9話 エルフの隠れ家でたわわ告白

『ここは、エルフの隠れ家です。泉の中にお招き致しました』

 ふんわりした所に、座るように促された。

 俺とネココ先輩、三人のエルフさんが、輪になった。

 足が冷たいと思ったが、間もなくぬくもりを感じた。


「キラキラとしている。不思議な空間だな。鏡とかではない。金平糖を感じる」

「イヌコは、食いしん坊なの? 何か特別な感じがするね」

 そうですね。

 はい、食いしん坊です。

 この所、食事をしていないからか?

 アキュータ国では、お腹が空かないな。


『お二方、気に入ってくださいましたか』

「素敵ですね」

 ネココは、キョロキョロしていたが、俺は、圧倒されていた。

 輝きは、静謐せいひつな中に心地よさをもたらしていた。

 安らぐ……。


『ここは、告白の間です』

 告白?


『イヌコ、ちっぱいエルフのネココを愛しているのですね』

「な、何を……」

 狼狽するしかなかった。


『ちっぱいもいいですね』

 流石だ、エルフさん。

 ネココ先輩を傷付けまいとしている。

 皆の胸を見ると、サイズはちっぱいからたわわまであった。

 まあ、当たり前か。

 しかし、ちっぱいだから好きな訳ではない。

 たわわが望ましいが、完璧主義と呼ばれるだろう。


「私を愛しているんだ、イヌコ……。異世界告白は、罪深いぞ」

 長くなった耳をペタンと垂らすネココ先輩も激かわキノコを呼んだ。

 小生、悩みます。

 罪深いのは、どちらですか?


「あ、愛しているだと? 俺は、ネココ先輩の作品に、続編を書いたまでだ。誤解は、困る」

「誤解なの?」


「ああ、誤解だよ! ちっぱいが好きかどうかは、好みだ!」


 ダン!


「俺は、何も悪いことしていない……!」

 普段、沈着冷静な俺が泉の中を叩いてしまった。


 ――ぐらり……。


 空間が急に歪んで、大きな地震に襲われたと思った。

 泉は飲み込むように波立ち、岸も動いてじっとできず、俺達は叫んだ。

「溺れるな!」

「助けてよ!」


「うおおおおおおおお。猫先輩、俺は……。俺は、愛して……! 愛しています……!」

「きゃあー!」


 ――スランプ・トンネルヘ・スクリュー……。


 キリキリする声と共に、どこかに投げ出された。


「……」

「……」


 う、うーん。

 俺は、横になりながら魘されていた。

 何か長い夢を見ていたような気がする。


 ……ほわん。


 唇にふと温もりを感じた。

 やわらかい香りもする。


「うっわ、猫先輩。向こうの泉を見てください……」

 俺が、うわごとで起きるなど珍しい。


「台詞が違うぞ」

 しっかと目を見開くと、直ぐにキュートな猫先輩がいた。

 猫先輩から、やわらかい香りがする。

 どうして……。

 あの時感じたぬくもりは……。


 キ……。

 キ、ス……。


 うおおおおお!

 後ろを向け、後ろを向け。

 は、恥ずかしい……!


 別の話、別の、何かあるだろう?


「ここは、学校へ向かっていた朝焼けの土手……」

「そうね、エルフの集落ではないわ……。泉じゃなくて、川よ」

 囁き合った。


「それより、さっきさ。私のこと、何か言わなかった……?」

 猫先輩が、耳まで真っ赤になって囁き続けた。

 やめてくれ。

 その恥じらいは、堪らない。

「き、気にしないでいてくれたまえ……」

 死にかけないと無理な話だ。

 俺は、いつ告白できるのか?

 もう、スランプ・トンネルは、来ないと思うのに。


 その前に、お約束をしておかないと。

「あはは、猫先輩」

 笑顔だ。

「人間になっています」


「うふふ、犬君。君も」

 笑顔だ。

「人間になっています」


「ぷっ」

「くっふふふ」


「もう、エルフ夫婦作家ではないな」

 俺は、寂しかった。

 一時いっときでも、夫婦だなんて。

 俺には、勿体ないや。


「猫先輩、文芸部誌には、あれを載せるのですか?」

「うん、引退だし、もっとがんばりたいな。もう一作は考えたい」


「そうですよね。俺もがんばります」

 笑顔、笑顔、笑顔!


「うふふ。同じタイトル入れない?」

 いたずらっぽく唇を触るの恥ずかしいのですけれども。

 小生、いやん。


「やや、それは恥ずかしい。付き合ってますみたいだし」


「どうなの?」

 覗き込まれると困るって、知ってます?


「えっと……。やってみましょうか!」


 朝焼けを浴びながら俺たちは心を合わせた。




『俺のちっぱいエルフはラノベ作家』

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