第8話 俺様が真の小生に直りました

「純文学には程遠いのですが、俺が国へ帰って会心の作を用意していたのです。勿論、エルフさんも大活躍を期待して欲しいです」

 下手でもスマイルを欠かさなかった。


「イヌコ……。自分から話せるの? それに、会心の作って、いつの間に……。一晩しか経っていないわ。眠れたのかな」

 おや。

 ネココ先輩、俺のこと、心配してくれているのかな。

 以前には分からなかった機微を感じる。

 これが、人を大切に思うってことなのか、ネココ先輩……。


『おお。イヌコ! エルフの活躍を読みたい』

『エルフは、どんな文字でも読めるが、エルフのための娯楽は少ない』

『二人は、貴重な異国の作家だ』

 エルフさんが嬉々としてくれている。


「お任せください。がんばれるだけ、がんばりました。お楽しみいただけると嬉しいのですが」

 俺は、丁寧に原稿を手渡した。

 

「ちょっと、何? イヌコったら。会心の作に出会ったの?」

「ま、まあ……。大した話ではないのですが、自分としては、スランプ脱出の一歩になったかなと」

 冷やかすように肘でつつかないでくれ。

 俺が恥ずかしいよ。

 あっ……。

 ネココ先輩、かすかに涙を散らして背中を向けた。

 これって、俺が泣かしたのか……。


 気を持ち直さないと。


「どうぞ、エルフさん。皆さんに読んでいただけたら嬉しいのですが」

 回し読みしてくれている。

 読者様は、ありがたいし、嬉しい。

 胸が、高鳴る。


「私にも読ませてよね。それにしても、人当たり、物腰が柔らかくなったわね」

 リスちゃんのぷーをされてしまった。

 今は、安らぐ。

 激かわキノコもおさえ気味だ。

 褒められるなんて、俺は、そんなに変わったのか?

 ネココ先輩、ありがとうございます。


『ネココ、イヌコ、仲良し夫婦』

 読者様に、何度頭を下げても苦にはならない。

「少しでも楽しんでいただけたならと思います」

 確かに、姿勢が低いかも知れないが、俺の気持ちだ。


『おおー! ネココが可愛らしい』

「ありがとうございます」

 俺は、心を込めて一礼をした。


『これは、噂の裸エプロンか?』

「偶々です。記述にはないのに、よく気が付かれましたね」


『イヌコの考えは、読みやすい』

 いやー。

 参った参った。

 感想を沢山くださる。

 ありがたい。


「ネココのも素晴らしいでしょう? ライトノベルも読みやすさや想像の余地があっていいですよね。感心しました」

 読んで、率直な感想だ。


「イヌコ……。クールと呼んでいたけど、ごめんなさい。謝るわ。イヌコが改心したのかしら。これが本当の『改心の作』かな」

 駄洒落も可愛らしいですね。

 猫先輩。

 ニヤニヤニヤニヤ。

 激かわキノコ、胞子がばふん!


「ネココのも素晴らしいでしょう? ライトノベルも」

 素直な気持ちだった。


『ライトノベルと純文学、おもしろーい!』

『ネココとイヌコ、おもしろーい』

 うんうん。

 めでたしめでたしとなるよな。

 エルフさん、いい読者様です。


『裸エプロン、泉の戯れでしてみる』

 ええ?

 鼻息、ばふん。

 美しいエルフさんが……。


「やましい頭になってるわね」

 コツリと叩かれたのは勿論、煩悩。

「ごめんなさい」

 俺は、素直に頭を垂れた。


『おもしろーい。また、新作をお待ち致しております』

 お姉さん風エルフさんが、風を起こした。

 この中に入ってくれと手招きをする。

 危険な感じはしないが、随分と光耀いている。


「ネココ先輩、中に入ってみますか?」

 うかれたままの俺は、すっかり警戒心などなくなっていた。

「そ、そうね。逆らう理由がないし。おもしろーいかも」

 二人は、瞳を見つめ合った。


 トンネルのような中を歩んだ。

 ふよふよでキラキラとしていた……。

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