第1話 異世界転移したら作家だった
「
俺は、この時間が好きだ。
恥ずかしいから、俺の横顔しか見せない席にいるが、必ずちらりと見るのだ。
後、一ヶ月早く生まれたのなら、猫先輩と同じクラスになれたかも知れないのが悔やまれる。
文芸部の時間は、だからこそ充実したい。
「
猫先輩は、俺は
それで、俺も猫先輩と呼び始めたのだったな。
もう秋だ。
芸術の秋、絵よりも陶芸が好きだ。
読書の秋もいい。
猫先輩も今度の部誌で受験の為、文芸部から去る。
芥川賞とかのものを書いて驚かせてやりたい。
おっとと。
小生、妄想が入りました。
「私は、ラノベって犬君の完璧主義を砕いてくれると思うよ」
猫先輩は、艶やかな黒髪を腰のあたりまで伸ばした黒目のくりっとした幼顔で、世話焼きである。
タイプど真ん中だ!
水色で膨らみ袖がポイントのセーラー服もよく似合う。
後は……。
バストが気になる。
小生の妄想は正直だな。
「俺は、純文学が合っています」
俺の天然のゆるいウエーブがかかった茶髪に端正な顔立ちが、クールとマッチしていると後輩に指差されるが、それは否定したい。
特に、クールなつもりはない。
「じゃあ、ぎりぎりまで部活しよっか。私がノートパソコンで、犬君が原稿用紙ってよく友達にウケるって言われるのよ」
猫先輩が、カタカタとキーボードと対話をする。
しかし、どうも指の動きは鈍く感じる。
「原稿用紙のアナログ感が堪らないのですけれども」
ペンを走らせた所に目を通す。
同じ所を目が追ってばかりで進まない。
全く威張れないが、叫ばせてくれ。
俺は、俺は、スランプなんだー!
「校正するの大変でしょう? 保管とかも」
猫先輩も負けないなあ。
ちょっと強情なくらいが可愛いのだが。
俺の信念も話しておこう。
「紙は、信用が置ける」
「印刷すれば、一緒だよ」
ダン!
「俺は、何も悪いことしていない……!」
普段、沈着冷静な俺が机を叩いてしまった。
――ぐらり……。
空間が急に歪んで、大きな地震に襲われたと思った。
椅子ごとガタガタと動いてじっとできず、俺達は叫んだ。
「机の下だ!」
「机の下よ!」
「うおおおおおおおお。猫先輩、俺は……。俺は、好きでした……!」
「きゃあー!」
――スランプ・トンネルヘ・スクリュー……。
キリキリする声と共に、ふんわりした朝露の草地に投げ出された。
「……」
「……」
う、うーん。
俺が先に起きた。
結構頭が痛い。
見渡せば、もやのかかった美しい森の中であった。
「うっわ、猫先輩。向こうの泉を見てください。エルフさんばかりです……」
「そうね、素敵なコスプレかと思ったけど、エルフさんの集落に私達が迷い込んだのかしら……」
囁き合った。
「それより、さっきさ。私のこと、何か言わなかった……?」
猫先輩が、耳まで真っ赤になって囁き続けた。
やめてくれ。
その恥じらいは、堪らない。
「き、気にしないでいてくれたまえ……」
死にかけないと無理な話だ。
「てか、それー!」
俺が猫先輩の耳に気が付いた。
「猫先輩。信じがたいと思います。心して聞いてください」
「は、はい……」
猫先輩は、俯いていた。
「私は、犬君のこと……」
「エルフさんになっています」
「は?」
「耳、触ってみてください」
顔を上げて、ちょんちょんと触った。
「てか、犬君。君も……」
「エルフさんになっています」
「は?」
「鏡いる? スマートフォンが鏡なの」
「うおお! 学ランにエルフさん?」
「私、お耳がとんがっているよー。セーラー服だし。変!」
猫先輩は、体をパタパタとはたく。
ガサリ……。
『どなたですか?』
美しいエルフさんが、泉での戯れをやめ、二人を取り囲んだ。
俺達は、もしかして、危険な状態では?
『何をしていますか?』
「私、ネココ。この人はイヌコ。天羽文芸部の作家です」
「作家だなんて、何を仰いますか。ネココ先輩」
エルフさんは賢いが、危険がないとは断言できない。
ここは、慎重にしなければ。
「しー……。咄嗟のことよ。あながち間違ってはいないわ」
ネココ先輩は、順応性が高いのか。
よき団地妻になりそうだ。
はっ。
又、小生の妄想癖が……。
『ネココとイヌコ。ボンジュー(おはようございます)』
「おお、ボンジュー。仲良くしてください」
ネココ先輩が愛想よく笑った。
俺は咄嗟に笑えなかった。
俺だけが緊張しているように感じる。
普段、溶け込んだり、つるむのは苦手なクールな俺だ。
ここは、ネココ先輩に任せるか。
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