#4 星空の皿〜わたし、OL辞めてパティシエになります!(笠井カヤナさん)
https://kakuyomu.jp/works/1177354054885633871
いい歳こいてフレンチのコースではナイフとフォークを外側に置いてあるやつから順番に使うのだという事も知らず結婚式場の下見に行った時のディナーの試食で大恥かいたおっさんがいます。わたしです(挨拶)。
本作は小生にとって、久しぶりの一気読み作品でした。
が、投じた★は2。
終盤の展開があまりに駆け足で、少々の尻すぼみ感があったのが主な要因です。それさえなければ★3をつけていたと断言できるだけに、このポイントは非常に惜しい。
聞けば作者氏も、終盤が駆け足になりがちなのは自覚しているとの事。
しからば、そこに焦点を当てて分析してみんとおじさんは考えました。
さて。
物語を作る上での基本は「起承転結」であるというのは広く知られています。
長編ストーリーにおいては、小さな起承転結を積み重ねて大きな起承転結を形作るというのが一般的でしょう。
その点に着目して分析すると、本作の終盤が「駆け足」で「尻すぼみ」な印象になってしまう現象の正体が見えてきます。
まずは各話でどんな「小さな起承転結」があったのかを見てみましょう。小生の主観でまとめると、下記のようになります。
#01 物語全体のオープニング
#02 好実の転職編:起
#03 好実の転職編:承
#04 好実の転職編:転結
#05 何でも屋就任編:起承
#06 何でも屋就任編:転結、秀太の家庭事情:起
#07 秀太の賄い編:起承、好実と秀太の関係:起
#08 繋ぎの回
#09 秀太の賄い編:転結、秀太の家庭事情:承、好実と秀太の関係:承
#10 パティシエとしてのアイデンティティ確立:起
#11 ゆりと真島の関係:起承
#12 ゆりと真島の関係:転
#13 パティシエとしてのアイデンティティ確立:承、好実と秀太の関係:転
#14 荒山の単発エピソード
#15 アンリーブル編:起
#16 アンリーブル編:承、パティシエとしてのアイデンティティ確立:転
#17 アンリーブル編:結、秀太の家庭事情:転結、パティシエとしてのアイデンティティ確立:結、ゆりと真島の関係:結、好実と秀太の関係:結
ご覧の通り、最終話で「結」の大渋滞が起こっています。
単純に最終話だけ文量が飛び抜けて多いですが、文量をもってして解決できる問題ではありません。
「結」ばかりが続くという構造自体が問題を引き起こしています。
具体的に申し上げましょう。
そもそも起承転結において、もっともドラマチックなのは「転」です。「起」で問題を提起し、「承」でそれを掘り下げ、「転」で解決を提示し"おおっ"、と思わせる。そして「結」でその結果を描き、余韻を楽しむ……というのが、起承転結というものの一連の流れです。
しかしながら、本作の後半は起承転起承転起承転起承転そして結結結結。
起死回生のニコちゃんクッキーを最後にして、以降は盛り上がりどころが残っていないのです。強いて挙げれば秀太の家庭事情の種明かし。それすらも「結」の大群に埋もれてしまった感があります。
そのため最終話は、物語のグランドフィナーレでありながら、まるで"後片付け"となってしまっており、尻すぼみ感が出てしまっているわけです。
解決策としては「結」の配置をもう少しばらけさせる事ですが、ではその順番をどうするか。言い換えれば、グランドフィナーレに持ってくるべき「結」は何か。
これは個人的意見ですが、小生は「パティシエとしてのアイデンティティ確立」の部分を最も強調して持ってくるべきだと思います。これに「星空の皿」というタイトルを回収するエピソードを絡められればなおベター。
(もちろん話の内容がまるごと今のままで順番だけ変えればいいというわけではなく、いろいろ組み換えなくてはならないでしょうけれども)
なぜなら本作は、タイトルからも読み取れる通り、OL辞めてパティシエになるお話だからです。
うだつの上がらないOL生活を抜け出して、パティシエとしての人生を歩み始め、その道ならではの困難さに直面しながらも周囲の人々とともにそれを乗り越え、かつてとは違う自分を手に入れる。それが本作の主題であるはずです。
であるならば、OLやってた頃との対比となるようなシーンで物語を締めるのが、主題に沿った綺麗な終わり方ではないでしょうか。
いやまあ作者氏が狙ってるものがそれではないというのなら小生のこの言い分は的外れなのですが、読んだ限りではこのように読み取れました、という事で。
(さりながら本作のジャンルが「ラブコメ」とされている事から、実は作者氏は恋愛ものを書きたかったのではなかろうか? という一抹の疑念も小生は捨てきれておりません。ただ小生の主観では現代ドラマだと思ってますこれ)
また、小生の解釈では、アンリーブル編:転がありません。
好実が16話で提案したのはあくまでもアンリーブルとは異なる客層を取り込むための方策だったはずで、アンリーブルにマイナスの影響を与える引き金になるようなイベントは何ひとつ起こっていません。
にもかかわらず、少し前まで絶好調だったはずのアンリーブルが自動的に閑古鳥になってしまった印象があります。
これもまた、急に物語を巻きで終わらせようとしているかのような残念感に繋がってしまっています。
総括すると、起承転結の構造をもう少し整理しましょう。それだけで、見違えるほど読後感が良くなるはずです。
途中までは素晴らしい出来なのですから。
内容に関して言及できるのは以上です。
が、集客に関してはもう一点だけ申し上げたい。
本作の(カクヨムにおける)大きな弱点、それはキャッチコピーだと思います。
当記事を執筆している時点での本作のキャッチコピーは、「この転職、もしかして失敗!?」です。
これは本作の内容をまったく正確に表していません。
好実が転職を後悔した時などあったでしょうか。
転職後の好実は、一時的に大変な思いをする事はあっても、いつでも前向きでへこたれない、応援したくなる頑張り屋だったはずです。
そんな主人公を、ひいては物語の全体像を伝えるキャッチコピーになっていないため、この作品を手に取れば最後まで読んでくれるであろう人へのアピールができていないのです。
これは非常にもったいない。
もっと前向きなキャッチコピーこそが本作には相応しいはず……といったところで今回は筆を置きとうございます。
仔羊の香草焼き食べたい。
僕が★3をつけなかった理由 西山いつき @blt_sand
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