#1 うさぎの骸(小谷杏子さん)
https://kakuyomu.jp/works/4852201425154939763
この作品が「異世界ファンタジー」に分類されてしまうのがカクヨムのカテゴリの不充分さを表しているように思うのですよ(挨拶)。
レビューにも書かせていただきましたが、この作品はクラシカルなハイファンタジーの世界を描いています。
特に情景描写に、世界観に対するこだわりが見えます。微に入り細を穿つが如く詳細な描写の数々は、怪しくも神秘的な魔女の森という舞台を丁寧に演出していると言えましょう。
描写があまりに丁寧すぎるためか、少々読むのに体力を要しますが、あたかも読み手自身がその世界に迷い込んでしまったかのような味わいのある作品です。
ゆえにこの作品の最大の特徴は、"没入感"であると小生は考えます。
良くも悪くも"渋い"作品であるため、読む人を選ぶ傾向にある作品ですが、この雰囲気を求めていた人には突き刺さる作品だと言えるでしょう。
ですが、この"没入感"に真っ向から対立する要素を含んでいるのが、この作品の問題点です。
あらすじとプロローグを読んでみると、中世ファンタジー世界、それもイマドキのライトノベル風のゲーム感覚の世界ではない、重厚な古典ファンタジーに近い世界観である事が察せられます。
プロローグを読み進めていけば、"魔女の森"、"首切りウサギ"、"真実の瞳"――と、いかにもそれらしいキーワードが並びます。
そしてプロローグ終盤で、唐突に小型銃が出てきました。
――ん? うん、ああ、フリントロックピストルみたいなやつね? 日本で言う短筒とかああいう。
次なる第1話では、森に囲まれた、レンガ造りの道が走る小さな村にて、少女が新聞を手にしていました。
――ええと、活版印刷も実用化されてるって事でいいのか。16世紀ぐらいの文明レベル?
第2話では、少年少女が丘の向こうの学校へ通い、さらには飼育係をやっておりました。
――中世の、しかも都市部から離れた村にしては、ずいぶん近代的な学校制度だなあ。
煽ってるように聞こえたら申し訳ないですが、小生の初見の感想はこうでした。
古典ファンタジーのような童話のようなこの作品の雰囲気から、"現実の中世なら"最低でも16世紀に突入しないと存在しなかった単語が平然と出て来るとは予想できませんでした。
それらが出現するたび、脳内の情報をアップデートするために、"没入"した状態から一度、我に返らざるを得ませんでした。
これが★2で止めた最大の要因です。
せっかく丁寧な描写を重ねているにも関わらず、こういった部分で損をしているというのが非常にもったいなく感じます。
なお上記の指摘は、この作品の世界観そのものを否定するものではありません。
ただ、ファンタジー世界、それも古典ファンタジー寄りの雰囲気の世界として直感的にイメージできるものから乖離した単語を出すのであれば、ワンクッション欲しい。
例えばTRPG出身である小生にとっての卑近な例で申しますと、『ルナル・サーガ』などは、学問の神の神殿が義務教育施設を兼ねているという設定のもと、子供たちの多くはそこで初等教育を受けるという世界でした。
こういった、雰囲気を崩さないための心配り(こじつけとも言います)があと一歩欲しかったところです。
さらに惜しむらくは、こういった"直感的にファンタジーっぽくない単語"が出て来るのは、この作品の序盤に集中しているという事です。
入口の部分で「ん?」と思われて、読むのをやめられてしまっては、非常にもったいない。
直近のエピソードではこういった要素が唐突に出て来る事はないので、ひょっとしたら作者様も自覚されているのかもしれません。しかし、それであれば尚の事、序盤を早めに改稿すべきではないかと思います。
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