#3 ウィズ・ア・サムライ(西塔イリアさん)
https://kakuyomu.jp/works/1177354054883443103
ジャンル的には現代ファンタジーとされていますが、言うほどファンタジー成分強くはありません。じゃあ何ジャンルなのかと問われると小生も答えに窮しますが、ただ正統派の若年層向けライトノベル路線であるとは言えましょう(挨拶)。
出し抜けに自分語りをしてしまいますと、小生はスレイヤーズ世代です。
一般文芸とは線引きされた若年層向けのエンタメ小説はそれまでもありましたが、マンガ感覚で読める文体と内容によって若年層向けにアジャストされた作品が『ライトノベル』という新たなくくりで呼ばれるようになったのは『スレイヤーズ!』の時代からだったと記憶しています。
以降十年来、雨後の筍の如くライトノベル作品は生まれては消えていきました。そして小生は猿の如くそれらを読み耽っては、それらを模倣して、今となっては黒歴史としか呼びようのない駄文を400字詰め原稿用紙に書き殴っていたものです。
今やおっさんと呼ばれる年齢になって久しい小生、ライトノベルに分類される作品はとんと読まなくなってしまいました。
そんな小生がこの作品『ウィズ・ア・サムライ』を読んだ時、ふとあの頃の懐かしい感覚を覚えました。
特定の作品に酷似しているというのではなく、全体的な雰囲気がらしい。王道的と言ってもいいでしょう。
何の王道なのかと言われると少々表現に困ってしまうのですが、強いて言うのであれば、ファンタジー成分もあり、ラブコメ成分もあり、ギャグ成分もあり、シリアス成分もあり、バトル成分もありの『ごった煮現代冒険もの』かと思います。
さて、そんな作品に小生は★2を投じました。
★ひとつ分のマイナス点がどこにあったのか、語らせていただこうと思います。
①物音の表現
ところどころ、物音が「」で囲まれていますが、これは一般的な文章創作の作法に反しています。
小生も国語の問題の採点みたいな事をしようとしているわけではないのですが、通常、「」は人のセリフであるというのが一般的な物書きの共通認識です。セリフのつもりで目に入れた文章が実はただの物音だったのだと、一文読み終えてから認識を更新しようとすると、どうしても読者は文章に集中した状態から一歩引いて、冷めた状態になってしまいます。
お作法に叶っているかどうかというよりも、読者を夢中になった状態から醒めさせてはもったいないという観点で、この問題を挙げさせていただきます。
第十話以降は是正されているようですが、確認したところ、それ以前のエピソードで何箇所か残っています。
②唐突な視点移動
顕著な例としては第三話の「◇◆◇◆◇◆◇」の直前です。
この作品は基本的に主人公である正汰の一人称による主観視点(たまにヒロイン視点)で描かれていますが、問題の箇所だけ唐突に三人称客観視点になっています。
わずか65文字のシーンではありますが、これは禁じ手と言っていい部分です。
殊に該当の箇所は、直前までがヒロイン夜宵の初登場シーンです。これを主人公の一人称主観視点で描いている以上、読者に伝えたいものは『正汰の視点を通して見た、夜宵の可愛さ』であったはず。
それを唐突に視点移動させてしまう事によって、読者の気持ちもどこかへ飛んで行ってしまいます。
もちろん、視点を千尋に向ける事によって、二人のヒロインを対比で見せたかった意図はわかります。
ですが、だからこそ千尋もまた正汰を通して見た描写でなければ、読者が作品世界に没入した状態で、二人のヒロインの可愛さの間で気持ちを揺り動かされる事にはなりません。
難しいとは思いますが、どうにか一工夫してみていただきたい。
明確に弱点として挙げられる部分はこのぐらいです。
強いて気になった事まで挙げると、下記の通りです。
③描写が淡白気味
これは欠点として挙げてよいのか、正直言って小生も悩みました。
なぜならこの作品は、スラスラ読めるという長所があるからです。
状況を理解させ、読者を感情移入させるのに必要なポイントを押さえ、極力短いセンテンスで構成されている。これはこれで間違いなく長所です。特に、スマホでちょちょっと読む人を対象として考えるなら、これは大きな武器だと言えるでしょう。
が、欲を言えばもう少し緩急が欲しい。
例えばプロローグの古びた木刀も、ボロボロに朽ちかけていて埃を被っているのか、どこか時を刻んできた重みを感じさせる雰囲気があるのか、そういった描写ひとつで読者の印象はだいぶ違ってきます。
とは言え、この手の詳細な描写を毎度毎度やっていると、読んでいて疲れる作品になってしまい、『スラスラ読める』という長所を殺してしまいます。
ねっとり描写すべき所のみ、する。そういう技を駆使できれば、より良くなるかと思います。
④微NTR要素
個人的には大好物なんですが(問題発言)。
夜宵の唇が奪われてしまったり、正汰に憑依したケンシローと千尋がイチャつく形になっていたりと、こう、オブラートに包んで申し上げるならば、純愛派とでも呼ぶべき人々が拒絶反応を起こしそうなシーンが散見されます。
これはライトな雰囲気の若年層向けエンタメ作品における、正道の展開を期待した読者が発狂する危険性があります。
作者様が書きたいものがそれであるならば、書くなとは申しませんが……強いて申し上げるならば、これで読者離れが起こっても心折れないでください、と。
この作品はまだ序盤とお見受けします。
一見すると、いろいろな要素がごった煮になっていて、方向性が定まっていないようにも見えるかもしれません。
ですが、恐らく作者様の書きたいものは、ファンタジー成分もあり、ラブコメ成分もあり、ギャグ成分もあり、シリアス成分もあり、バトル成分もありの『ごった煮現代冒険もの』なのでしょう。何か特定の要素に特化した作品を書きたいのではなく、『ろくでもないサムライの霊に憑依された少年を取り巻くいろいろな出来事』のすべてを書きたいのだと、全体の雰囲気を俯瞰して、小生はそう感じました。
さきほど問題として挙げた箇所も、直近のエピソードでは徐々に改善されている傾向があり、確かな技術力の向上が見て取れます。
今後この作品が作者様とともにどのような方向へ向かうのか、期待して待たせていただきます。
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