その人にとっての「幸せ」なんて、きっと誰にもわからない。

最終話まで読んだ私はいま、パソコンの前で顎に手を当てながらなんか色々考えてる風にこのレビューを書いています。
……あ、いや、実際考えてはいるんですが、なんだろう……この気持ちをどうお伝えすればいいのでしょうか。

誰もが「幸せ」に生きる白い街で、どこか欠けた人々が繰り返す日常。
それは決して、一般的には「幸せ」とは言えない毎日でしょう。しかし、彼らにとっては確かに「幸せ」で、そしてやっぱり「幸せではない」のです。

この作品は、最後まで読んでもすべてが明かされるわけではありません。そして劇的な、決定的な何かがあるわけでもありません(盛り上がりがないとかそういうわけでは決してなく)。
しかし静かに、確かに読者の心に何かを残していきます。時に重く、時にやわらかく。
それはまさしく、彼らの感じる「幸せ」なのかもしれません。

幻想的でやわらかな筆致で綴られる、夢の中のどうしようもない現実。
ぜひ、味わってみてください。