朽ち果てた願いの先に、耐え難い悪が芽吹く

それはのんきな企画主がマグニフィセントセブンなんか見て、「ガトリング砲め……」とか唸ってたときのことでした。
一日の終わりに企画を覗いたら、なんと一番乗りの小説が到着しているではありませんか!
それと同時に我が目を疑いもしました。
《多脚甲冑捕食地獄》――なんだこのキャッチコピー!? まさかロボか!? まさかカクヨムロボ勢の殴り込みにあってるのか? べつにいいけど! しかし一番乗りがロボかあ~。とかなんとかページを開いたら、さらに意外なものが飛び出しました。
※ここからはネタバレ全開です。

さすが……出落ちの方……。

端的に言って素晴らしかった。
ロボじゃありません。ハイファンタジーです。
必死に保っていた均衡が、日常が瓦解してしまう瞬間には、やはりある種の快楽があるのでしょう。
1900字と短い作品の中で、それをたっぷりと味わいました。

ムペルギティスの妄信に近い祈りも、灰色の風景の上に描かれる人の暮らしも、崩れ去る瞬間を想像してしまうほどに頼りなく脆い砂の城のように描かれています。
そして崩壊の瞬間、現れた異形――そしてその正体を知ったとき、読者はムペルギティスの過去について思いを馳せました。
具体的に語られてはいませんが、魔王に脅かされる生活でありながら、そこには幸福があったでしょう。
その幸福と、目の前の多脚甲冑の異形の姿とがコントラストをなして、呆気ないラストシーンに暗すぎる影を落とします。

あまりにも無惨。
ですがそれだけに、登場人物の過去と未来が気になります。
彼女の旅立ちの状況や、この先どうなってしまうのか。
ただ語られないからこその趣があるのかもしれず、悶えています。
この話を最初に読めてよかったと心から思います。
開幕を飾って下さり、ありがとうございました。