第六話 痴女子高生と初ファミレスプレイ! 後編(綺音視点)

私は偶然露木君を見かけたのですが、何とその隣には見知らぬ女子の姿がありました。当然、私は困惑しました。どうして露木君とその女子が仲よさそうに歩いているのでしょうか?

 だって露木君に友達や恋人はいません。それは私が調査したので間違いありません。

 そうなると最近、露木君に友達が? まさか恋人ではありませんよね?


「私の事をふ振っておいて、直ぐに別の女子と付き合うなんて……」


 そう呟いた私ですが、別に私は露木君に恋心を抱いているわけじゃありません。

 私が露木君を知ったのは2年に進学する前の話、露木君が赤信号の横断歩道を渡ろうとした中学生の女の子を助けた事がきっかけです。

 その時に私は彼の事が気になって、身辺調査をしました。それで知った事は、露木君は学校では目立たない、友達のいないぼっちという情報とアニメやラノベが好きなオタクということでした。

 私が露木君に近付こうと決めたのは同じ同志であり、女の子を必死に助けた勇姿に惹かれたからです。


「だからって別に私は露木君に恋心は抱いていませんからね?」


 そもそも、ヒロインが主人公を直ぐに好きになるチョロインじゃないのだから……。

 どうも私にはその手のラブコメもののラノベは好みません。もう少し主人公が好きになる理由を明確にしてほしいものです。女の子はそんなに軽くありません。

 そういえば逆のパターンもありますね。自分で言うのもアレなんですが、私は男子にモテる程の容姿を持っています。告白された数は軽く百を超えています。別に私はそれを自慢には思いません。


 だって告白された全ての男子が私を好きになった理由は、一目見て恋に落ちましたと軽薄に言います。好意を向けられることは嬉しいのですが、私は容姿だけではなく中身も見て欲しいのです。

 でも私の中身となると、オタク趣味が露見されるということで、きっと私の趣味を知れば幻滅するに違いありません。

 もし男子と付き合うのであれば、同じ共通の趣味を持った人が良いですね。例えば露木君とか。


「こ、これは同じオタク趣味を持った男子が露木君しか知らなかったからといいますか……」


 一体私は誰に言い訳を述べているのでしょうか。

 とにもかくにも、今は露木君と見知らぬ女子の事が先決です。

 一定距離を尾行する私は露木君をじーと観察します。

 何だか二人は仲が良さそうで、私の中にモヤモヤした感情が募っていきます。本当なら露木君の隣で楽しく会話しているのは私なのですけど……。


「はぁ~……」


 自然と溜息を漏らし、しばらく尾行するのですが、周りからの視線とひそひそ話が聞こえてきます。

 ええ、私が目立つ存在なのは慣れていますので、今更気にしていませんが、これでは露木君達に気付かれる恐れがあるから控えて貰いたいです。

 しばらく尾行を続けていると、露木君だちがファミレスに入っていきました。私はそれに驚愕しました。

 だって放課後にファミレスに寄るなんてリア充と同義ですよ? それが露木君のようなぼっちがファミレスに女子と一緒に行くなんてあり得ません!

 本当なら放課後にファミレスは私と一緒にオタク話する予定でした。初ファミレスは私が奪う予定でした!


「むむむ、あの女子は中々侮れません。…………もしかして露木君はあの女子に脅されているのでしょうか?」


 そうでなければ露木君とあの女子と一緒にいる説明がつきません。

 私はしばらく待ってからファミレスへ入りました。店員に案内された場所は露木君達の席から死角になっている席でした。これはラッキーです。取りあえず、ドリンクバーだけを頼んで、露木君達の席を窺います。


「どした…………? 今夜のオカズ…………考えてた?」


「…………」


「そ、そんな…………見つめて……べ、別に…………オカズに使ってもいい…………!?」


「…………モモっち……………………分からないよ……」


「ん? ユッキーって……………、俺って言ってなかったっけ?」


「え? …………あ」


 耳を澄ませて二人の会話を聞き取ろうとしたけど、周りの雑音がうるさいせいで二人の会話が聞き取れません。

 何だか今夜のおかずとか聞こえましたが……も、もももしかして二人は同棲する間柄まで発展しているのでしょうか!?

 しかも、ユッキ―とかモモっちとか妙に親しげにあだ名で呼び合っていますし……。露木君の友人枠を取られて私は嫉妬しました。ええ、これは否定しようもない嫉妬です。


「私も露木君とオタク話したいな……」


 手紙で失敗し、直接話をして失敗し、ここ数日露木君とどうやって仲良くできるのか悩みの種です。そういえば、私がこうして男子の事で悩むことは初めてです。

 気分が下がる私は水を飲んでから再び露木君達の方を窺います。

 露木君は顔を赤くして何やら女子に対してがなり立てている様子。勿論、依然として二人の会話は聞こえません。

 私の知らない露木君の楽しげな顔や少し頬を膨らませて怒った顔、恥ずかしそうな顔など色んな露木君を私は目にしました。

 何だか二人を見ていると、物凄く仲が良く、まるで恋人同士のように映ります。


「…………ずるい」


 別に恋人になりたいとかではありません。そもそも私は今まで誰かに恋したことがありませんので、恋というのが分かりません。当然、ラブコメもののアニメやラノベを読みますし、恋というのは好きな相手にドキドキしたり、一緒にいたり、手を繋いだりと胸がぽかぽかするということは頭で理解できます。ただ、実際に体験した事のない私ですので、それがどういう感情なのかが分からないだけです。

 とにもかくにも、恋の定義については置いといて、私がずるいと言ったのは仲よさげに喋る二人の姿に対して、呟いた言葉なのです。

 今の私が求めているのは共通の趣味を楽しくお喋りできる友達が欲しい事。そして同じ趣味を持つ人が露木君であって、二人のように仲良くオタク話に花咲かせたいのです。

 やはり、ずるいです。あの女子が露木君と一体どんな話をしているのか分かりませんが、それでも露木君は心を開いて会話しているのは、露木君を調査してきた私だから分かります。


「あ……スマホ」


 何やらお互いスマホを持って、露木君は困惑して四苦八苦しています。そんな露木君の様子に、女子は露木君のスマホを手に取り、操作しています。直ぐに返すと、二人でスマホを揺らしていました。

 あれはSNSアプリの機能であるフルフルでしょうか。ということはID交換ってこと?


「…………」


 そんないとも簡単に露木君のIDを手に入れた女子に、私は羨ましそうに見ました。すると自然と溜息を漏らし、自分のスマホを手に取る。SNSアプリを開くと、友達の蘭には何人か登録されています。その中に男子のIDはありません。その理由は単純で、下心がある男子から毎日のようにメッセージが送られてくるからです。みんながみんな下心があってメッセージを送るわけではないのは理解しています。ただ中学生の時、私は男子から毎日のようにメッセージを送られたことがありました。数分、数十分、返信を忘れると、その男子から、なぜ既読無視するのかという内容の文章が何度も送られてきました。

 その時のトラウマが未だに私の中で根付いています。


「今まで男子からID交換するのは断っていましたけど…………」


 露木君はどうなんでしょうか?

 勿論、大丈夫だという根拠はありません。だけど、露木君は他と男子とは異なる魅力があるといいますか……。


「はぁ……まずは仲良くなることが先決よね」


 このままではどんどんあの女子に露木君の初めてを奪われていきます。

 ドリンクバーだけ取りに行って帰宅しようかと立ち上がろうとした時、あの女子が露木君が先程口付けていたストローを咥えたのを見ました。

 思わず、私はテーブルの上に手を思いっきり叩いてしまった。周りから不思議そうに見られ、店員からは「ど、どうしたました?」と恐る恐る聞いてきました。

 私は苦笑して「す、すみません……何でもないです」と萎縮し、席に座りました。

 だ、だってあ、あの女子がつ、露木君のストローをく、咥えたのよ!?

 こ、こここれって間接キスじゃない……?


「……どうして私はそれで動揺してるのよ……。別に露木君に恋人がいても別に何とも思っていないわよ」


 でも実際の所、私もよく分からなかった。恋というものは本当に分かりません。分かりませんが……私はその女子の行動力が羨ましいと感じ、嫉妬しているのかもしれません。

 私も行動力がある方だと自負していますが、ただ相手のことを思い、必要以上に踏み込めない私がいるのです。恐らく、それが露木君に近付くことができない原因なんでしょう。


「今までと同じだとまた失敗しますね……なら私もあの女子に見習って踏み込む必要があるわ」


 そのためには誰かに相談する必要があります。不本意ながらその相手を久瀬さんに頼みましょう。彼は私に下心はありませんし、軽薄な人ではありません。イケメンリア充のくせに奥手です。

 もしかしてあっちの趣味を持っているのでしょうか?

 それはそれで少し気になりますね。一体誰が受けで、攻め何でしょうか。

 そういえば久瀬さんは露木君とゲームの話をしたと言っていましたね。

 も、もしかして久瀬さんは露木君を狙っているのでしょうか!? 衝撃な事実に私は狼狽します。

 そうなりますと久瀬さん×露木君? 久瀬さんが誘い受けで逆のパターンも?


「…………露木君には女の子を好きになって貰いたいですね。そのためには久瀬さんの魔の手から私は守る必要があります!」


 謎の使命感に燃える私はドリンクバーコーナーへ行き、オレンジジュースを選択して再び席に戻って、露木君達をしばらく観察しました。

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