第二話 モブキャラの露木陽也にラブコメは起こらない 中編(大輝視点)

帰りのホームルームが終わると、俺はふと視界の端で先に教室を出る男子生徒の姿を映した。その男子生徒が誰だったか考えて、名前が出てくるのに少し時間を要した。確か露木陽也って名前だったか。全員の名前と顔は一応覚えている。ただ、露木の場合は印象が薄く、思い出すのに数秒の時間が要するだけ。


(露木って部活してたっけ? まあ交流したことないし、俺には関係ない事だけど……。ま、いっか)


 俺は帰り支度を済ませて立ち上がると、友人の翔太が近づいて来た。


「だいちゃんだいちゃん、これからカラオケ行かね? もちイツメンでさ」


「俺は構わないけど、玲菜と亜未は分からないだろ? それにお前サッカー部はいいのか?」


「うお!? そうだった~今日からサッカー部再開じゃん! GW終わってまだ休み気分だったわー! わりぃーなだいちゃん」


 手を合わせて謝る翔太に俺は苦笑し、放課後の予定は無くなってどうするか考える。特にすることも無いから帰ってゲームかな、と予定を組んでスクールバッグを肩に掛ける。すると今度は玲菜と亜未の二人が近づいて来た。


「大輝ー帰ろっか?」


 機嫌良く玲菜が笑顔で言う。


「おう」


「今日何もないし、どうしよっかな……」


 亜未が爪を眺めてぼやくと、翔太がそれに食いついて距離を詰める。


「なら俺とデートどう?」


 さっきサッカー部があると言ったばかりなのに、もう忘れたのだろうか。


「は? ごめんなさい。あたし、軽い男は勘弁。それにショータはサッカー部じゃないの?」


「サッカーとデート、どっちを取ると言われれば俺は当然デートを取るぜ?」


 サムズアップする翔太に、亜未はうざったそうな目つきで翔太から距離を置いた。幼馴染みなのにそれは酷い対応だなって思ったけど、翔太は特に気にしてなかった。

 このメンバーでいつもつるんでいる。

 お調子者でムードメーカー。サッカー部に所属して体力には自信のある佐竹翔太さたけしょうた

 その幼馴染みでいつも怠そうなオーラを放って、いつもスマホを弄っている。茶髪で肩まで伸びた髪の坂野亜未さかのあみ

 そして、クラスの女子でリーダー的な存在で、冷たく恐れられているが実は面倒見が良い。金髪に毛先がカールした所謂ゆるふわヘアーの鳴海玲菜なるみれいな

 そして俺――久瀬大輝。翔太が言うイツメンと指すのはこの四人の事である。

 紹介も終わったところで俺たちは下駄箱まで他愛ない話をしながら向かっていた。

 時々、すれ違う女子にチラ見され、頬を赤らめ、それを玲菜が蛇が睨むような眼光で睨み付けて、青ざめた女子が早足に去って行くという一場面を俺は目にした。


「そんな睨まんでもいいだろ」


「やだ~ウチ別に睨んでないよ? って大輝ってばウチの事見てたの?」


「玲菜っち、氷結の女王とか呼ばれて――」


「あぁ?」


「何でもないっす!」


 根は優しい玲菜なんだけど、俺に視線を向けたり、話しかけたりする女子を敵視するのはどうにかしないとな。

 昇降口に着くと俺は上履きを脱いで下駄箱から靴を取り出そうとして、何かが入ってる事に気づく。それを取り出すと可愛らしい手紙だと知り、咄嗟にそれをポケットに入れた。ラブレターということは明白である。

 別にこれが初めて受け取る訳ではないが、以前ラブレターが下駄箱に入っているところを三人に見られたことがある。弄られはしたが、特に俺は気にしていなかったが、ただ玲菜の反応は少しおかしかった。ラブレターを奪われ、その場で読んだ玲菜が如何にも不機嫌な顔をしていた。すると玲菜は用事ができたと、どこかへ行ってしまった。


 まあ結論、そのラブレターをくれた相手が、少し怯えた表情でなぜか俺に謝ってきて、その場から去って行ったのだ。一体何をしたのか玲菜に問いただしたが当然惚けられて事情を聞けなかった事があった。

 それ以降、ラブレターを貰った時は玲菜に知られないようにしてきた。


「ん? 大輝どうしたの?」


 玲菜が俺の様子に首を傾げていた。ここでラブレターを知られる訳にはいかないから、何か理由を言って先に帰ってもらうしかない。


「……ちょっと用事があった事を思い出した。少し時間が掛かるだろうから先に帰っててくれ」


「それならウチも一緒に行くよ?」


「いや悪いけどその用事はちょっと深刻な用事なんだ。玲菜には悪いから先に帰っててくれないか?」


「…………」


 訝しむ玲菜。

 なぜか玲菜に俺が誤魔化していることがバレている。これも付き合いが長いからなのか。しかし、どうにかして被害者が出ないように防がないといけない。


「まあまあまあまあ、だいちゃんもそう言ってることだし、帰ろうぜ? って俺はこれから部活だけどな」


「大輝もそう言ってることだし、先に帰ってよう玲菜」


 何かを察した翔太が気を利かせてくれる。亜未についてはよく分からないけど、恐らくフォローされていると思う。

 若干不満そうな玲菜は渋々頷いて、俺は三人と別れた。

 俺は再び上履きを履いて、人通りの少ない場所へ移動すると、ポケットからラブレターを取り出した。少しぐしゃぐしゃになって申し訳なさがあったが、取りあえず中身を取り出す。

 その手紙にはこう書かれてあった。


『手紙が置かれていることに驚かれたかと思います。だけどこのような形でなければあなたに、ご迷惑をお掛けするかと思い、手紙をしたためました。それで私があなたに手紙を書いた理由ですが、少しお話がしたいからです。もしよろしければ屋上まで来ていただければ嬉しいです。ではお待ちしております』


 やたらに丁寧な手紙を読み終わり、天井を見上げた。

 そして、思ったことを口にした。


「この手紙って俺宛じゃないよな??」


 差出人と誰宛なのか書かれてなかったけど、明らかに俺に向けて手紙を書いたように感じられなかった。それにこれはラブレターなのだろうか?

 さて俺はどうするべきか。

 素直に相手に手紙を出す相手を間違えていませんかと伝えるべきか。


「でも俺じゃないって確定したわけじゃないし、もしかすると俺に向けて書かれた可能性もある。取りあえず屋上へ行けば答えは分かるか」


 しばしの逡巡の後、俺は屋上へ向かうことにした。

 普段から屋上は立ち入り禁止にされて立ち入ることはできないのだが、鍵は壊れて自由に出入りはできるため、密かに使われる事がある。といっても、誰が密かに使っているのか謎である。

 階段を一歩一歩登り、俺は手紙の主について考える。一体誰が書いたのか、少しだけ気になっていた。

 それに丁寧な手紙を書く人物は限られてくるけど、俺の知る女子なのか分からない。いや、女子と決めつけているけど、男子の可能性もある。その場合は確実にいれ間違いという線だろうけど……まさか変な趣味のある奴じゃないだろうな?

 そう考えてると、俺は青い顔をして、背筋に悪寒が走った。


「マジでそれは勘弁して欲しいな」


 扉の前まで来ると俺は少し緊張して扉をゆっくりと開いた。ギギギと鉄の錆びた音がして、俺は屋上へ出る。

 そして――俺は目の前の一人の女生徒に目を奪われる。

 天然のブロンドの髪が風で靡き、手で押さえるその女子はゆっくりと振り向いて、微かに笑みを浮かべ、碧眼が俺を映した瞬間――徐々に表情が固まって、盛大に溜息を漏らして落胆していた。


(えーーーー?)


 その変わり身ように俺は唖然とした。

 俺の目の前には学校のアイドルである桜小路綺音が立っていた。

 告白された数は優に百を超え、全て断っているという。そのため現在彼氏はいない。


「あの……あなたは誰でしょうか? 手紙は……確かにあの人の下駄箱に入れたかと思うのですが……もしかして私間違ったのかしら?」


「えーと……俺は久瀬大輝。それでこれは桜小路が書いた手紙で間違いないのか?」


「はぁ……えっと、私はあなたの下駄箱に手紙を置いた覚えはないのですが……」


「現に俺は手紙を持ってここに来ている。まあ何となく間違い何だろうなと思ってたけど」


「いえ、あなたが露木君の下駄箱から手紙を盗んだという可能性があります。リア充のイケメンは露木君みたいなオタクを陥れる傾向にあるという、統計結果が出ているのですよ」


「どんな偏見だよ!」


 書類をぺしぺしと叩くような仕草をする桜小路に俺は嘆息し、言葉を続けた。


「俺がそんな風に見えるのか?」


「見えます」


「即答かよ……。まあ取りあえず、えっと桜小路は手紙を露木に……露木?」


 そこで俺は疑問符を浮かべた。

 なぜ学校のアイドルである桜小路が影の薄い露木に手紙を渡すのだろうか?

 手紙には話がしたいと書かれていたが、意外な事実に俺は怪訝な顔をする。


「私は露木君に話が合って手紙を入れたのです。だけど、実際に来たのはイケメンのチャラ男という非常に残念な結末ね……。はぁー……それでその手紙を返して…………あなたえっと……クズさんでしたっけ?」


「初対面相手にクズ呼ばわりとか失礼だぞ……。というかお前ってそんな性格なんだな」


「あ、私はあなたに好感度が上がることはありませんので期待しないで下さい」


「え? 何か遠回しに俺振られたのか……?」


「そんな事より、クズさんにお願いがあるのですが……その前に露木君とは同じクラスでしょうか?」


「久瀬な。てか、非常に断りたい心境なんだけど……まあその質問は確かに同じクラスだな」


「では露木君にその手紙を渡していただけませんか?」


「……ちょっとくしゃくしゃになったけど、それでもいいか?」


 俺はくしゃくしゃになった手紙を見せると、桜小路がキッと俺を睨み付けてきた。悪いのは俺だから弁明の余地がないのだが……。


「やっぱりあなたは露木君のみならず、私にも酷い仕打ちをする鬼畜なのね!」


「俺を悪者扱いするのはやめような? 取りあえず、この手紙を露木に渡せばいいのか?」


「あなたの手で踏みにじった私の大切な手紙を露木君に渡すと、心痛めるかも知れませんので書き直します。というか予備がありますのでこちらを渡して下さい」


 俺が持っている手紙と同じ可愛らしい手紙を渡される。それを受け取って俺はふと疑問が生じた。


「なぜ俺が渡さなきゃいけないんだ? 桜小路が直接渡せばいいだろ?」


「……彼っていつも一人でいるのでしょ? もし私が彼に手紙を渡したらどうなるか、想像できるでしょ?」


 人気者である桜小路が影の薄い露木に出会うと、当然露木は注目の的となり、嫉妬や恨みを買ってしまう。それを知ってるから直接会うことを控えた。確かに容易に想像できる。

 しかし、なぜ桜小路が露木に興味を示しているのか。まあこれ以上詮索するのは野暮というものだ。俺は素直に了承した。

 ……というか俺お人好しすぎないか?


「それではよろしくお願いしますね」



※※※※※※※※※※※※※※※



「大輝、昨日の用事って何だったの?」


 俺が席に着くと、玲菜が近づいて来て昨日の件について追求してきた。

 深刻な用事と言って曖昧にはぐらかしたが、やはり玲菜は気になって訊いてきたようだ。

 ラブレターの件は手違いで俺の下駄箱に入れたって事で解決し、その相手がなんと学校のアイドルの桜小路である事を事細かに説明したところで玲菜は余計に疑ってくるのは明白。これは言わないのが吉である。

「あーその用事ってのはちょっと先生に進路のことで相談してただけだよ」


「ふーん……なら昨日そう伝えれば良かったじゃん。なんではぐらかすような事を?」


「……別にはぐらかしたつもりはないよ」


 意外に鋭い玲菜に俺は一瞬だけ言葉を詰まり掛ける。


「どしたー? もしかして玲菜、昨日のことまだ気になってるの?」


「うぇーい! って何だこの変な空気は?」


 亜未と翔太も同様に俺の席へ来ると、いつものメンバーが揃う。


「それより今日はカラオケに行かないか?」


「お! いいねいいねー! 俺サンセー!」


「ショウちゃん部活は?」


「ぐっ、きょ、今日はだいちゃんからの誘いだし、もちカラオケ優先だって!」


「……ま、いっか」


 玲菜は昨日の事がどうでもよくなって、これ以上詮索してこなかった。助かった。

 それから四人で他愛ない話を続け、俺はふと桜小路の頼み事を思い出した。チラリと露木の方へ視線を向けると、一人文庫本を手にして何かを読んでいた。そういえば、露木は周りからオタクだと言われていたんだっけ。それじゃあ、あの文庫本ももしかするとアレかもな。何だっけ? 何か軽い小説的なやつ。名前は忘れたが恐らく露木はそれを読んでいるはずだ。


 まあ、それが何だって話なんだが。俺は取りあえず、手紙だけでも渡そうかと考え、三人に断ってから席を離れる。まあ三人から怪訝な目を向けられたが。

 俺は露木に近付く…………のだが、露木の方は文庫本に目を向けたまま俺に気付かない様子だった。しかも「ふひひ」と妙に不気味な笑い声まで漏らしていた。そんなにその小説が面白いのだろうか?

 とにもかくにも、俺は声を掛けることにした。


「露木、ちょっといいか?」


「え?」


 顔を上げた露木は、俺に気付くと慌てて小説を閉じて焦り始めた。それに俺が露木に声を掛けたせいで、雑談していたクラスメイト達が何事かと俺たちに視線を向けていた。

 そんな注目を受けた露木は顔を真っ青にして、居心地悪そうに俺にチラチラと視線を寄越す。何だか悪いことしたなと頭を掻いて、俺は手紙を渡した。

 可愛らしい手紙に、露木は目を丸くして俺と手紙を交互に見て、なぜか引いていた。


「これを渡したくってな」


「え? あ、あの……こ、困るよ……ぼ――俺にそんな趣味なんかないし……」


 趣味? 一体露木は何を言ってるんだ?

 とそこで周りからひそひそと会話が聞こえた。その内容は「まさか久瀬君にそんな趣味が……」「ま、まさかのBL展開!?」「久瀬×露木……何これちょっと気になるんですけど!?」などなど俺は何となく事情を察して弁明する。


「ちょっと待て露木、これは俺からじゃなく……ある人からの手紙なんだよ」


「? そ、そうなの? えっと……手紙? これどこかで……あ、昨日の手紙か」


「ん? それどういうことだ?」


「く、久瀬君……その手紙だけど、えっと……それは俺宛の手紙じゃないよ」


「いや、確かにあいつはお前宛って言ってたぞ?」


「あいつ? えっと……そ、それって誰のこと?」


 ここで手紙の主の名前を告げるときっと大騒ぎになりかねない。だから俺は露木に顔を寄せて耳打ちする。その際、一部の女子から黄色い声を上げていたけど、気にしない。


「これは桜小路からの手紙なんだ」


「…………妄想が現実に?」


「妄想?」


「く、久瀬君……やっぱりその手紙は俺宛じゃないことは確かだよ。だって、その……俺に手紙なんて……あり得ないし、きっと俺をからかうために手紙を書いただけだよ。そう、それは一度装備したら呪われるアイテム。や、ヤバい……なぜ俺にそんな呪いのアイテムを?」


「教会行って呪いを解いて貰えよ! いやいや、それよりさすがにそれは桜小路が気の毒だぞ?」


「毒!? 一歩進むと一ダメージ食らうのか!? ごめん……今俺にはどくけしが持ってないんだ」


「なぜそんなにこの手紙を悪いアイテムにするんだよ!? いやだからこれは本当に桜小路がお前宛てだって言ってたんだよ」


「で、でも……ど、どどどうして俺に?」


「そんなもん本人に直接聞けよ」


「ご、ごめん……そうだよね」


 さっきまでのテンションは何処やら、露木は俺にびびると顔を俯かせる。

 それを見た俺は何だが、このまま手紙を渡して去るのが忍びなく、何となくだが俺はゲームの話を振ろうとした。


「露木ってゲームは好きなのか?」


「え? えっと……ゲーム……うん、好きだけど?」


「なら最近発売したばかりのレジェンドシリーズの最新作はやってるか?」


 俺がそう問うと、露木の目の色が一瞬にして変わると、キラキラした瞳が俺に向けられる。


「久瀬君もレジェンドシリーズの最新作やってるの!? 僕まだ中盤までしか進んでなくって、ほら港の町あるでしょ? その後のボスが結構手強くって今レベル上げ中なんだけど、久瀬君はどこまで進んだ?」


「お、おう。俺もまだその辺りだったかな。確かにあのボスは様々な状態異常を使ってきて手強いよな」


「ホントそれ! 体力半分まで削った後の全体に石化攻撃はマジで勘弁願いたいよ! かといって石化無効の装備アイテムが一つしか手に入らないからね」


 その後も露木は饒舌に、興奮気味な様子でゲームの話を続けていた。俺は少し驚きつつも、普段ゲームの話をしないから露木とのゲーム歓談は楽しいと感じていた。

 それに露木がこんなに喋るのも、楽しそうに笑うのも、初めて目にしていた。


(こういうのも……意外と悪くないかもな)


 俺たちはしばらくゲームの話で盛り上がり、俺はすっかり桜小路の手紙の事も忘れて、朝のホームルームが始まるチャイムまで会話が続いた。



※※※※※※※※※※※※※※※



「…………」


「…………すまん」


 俺は罪悪感から謝罪をすると、桜小路はあからさまに溜息を漏らした。全面的に悪いのは勿論俺で、反論の余地はない。しかし、桜小路ってこんな性格だっただろうか?

 噂で訊く限り、誰にも等しく優しい性格の持ち主と聞いたのだが……桜小路からは敵意しか感じられない。


「手紙を渡し損ねたのみならず……露木君と楽しく会話した、ですって? あなたみたいなリア充イケメンが露木君とお喋りなんて図々しいわよ!」


「別に図々しくないだろ!? ただ共通の趣味で盛り上がっただけで文句を言われる筋合いはないだろ? まあ手紙を渡せなかったのは悪いけど……というか露木の奴、桜小路の手紙と言った時、俺宛の手紙じゃないって言ってたな。そりゃー学校のアイドルから手紙って言われれば疑いたくなるよな」


「いえ、これはあなたがリア充だからこそ露木君は何かの罠だと、勘付いたのかもしれませんね……。となると人選ミスって事でクズくんが全部悪いわね」


「おい、さらっと人の悪口を言うな!? 久瀬だ! はぁ……なんで俺がこんな面倒な事に巻き込まれてんだよ」


 何もかも手紙が間違って俺の下駄箱に入った事から始まっている。この手紙マジで呪いのアイテムなんじゃないのか? 教会で呪い解除したいんだが……。


「そ、それで露木君とはどんな会話をしたの?」


「あ? ただゲームの話をしただけだよ」


「……これがイケメンリア充のコミュ力って事ね。はぁ…………ずるい」


「え? なんだって?」


「流行に乗ろうとして難聴主人公を演じても、今更流行らないわよ?」


「別にわざとじゃねぇよ!? 本当に聞こえなかったんだよ!?」


 イケメンリア充のコミュ力までは聞こえたが、その後の声が小さく聞き取れなかったのは本当の話だ。

 しかし、手紙を渡す事に失敗したということは、まだ桜小路からの頼み事は継続となるのだろうか。正直面倒臭いからやめたいんだが……これってクーリングオフは適用されるのか?


「契約の解除は解除料が発生致しますが……どうしますか?」


「ぐっ、俺は悪徳商法に引っ掛かってしまったのか……」


「では契約続行ということで追加料金が発生致します」


「ふざけんじゃね!!」


「それはともかく、久瀬君はイケメンリア充で目立つ存在ではありますよね?」


「まあ、自分で言うのもアレだが確かに目立つと思うが、それがなんだ?」


「そんなあなたが露木君と会話をした……それはクラス中で多少の騒ぎを引き起こす原因なのです。露木君はいつもぼっちで人と関わることがありません。露木君は……苦痛ではありませんでしたか?」


「あー……桜小路が思っているよりか、露木は周りを気にしていなかったぞ」


「そう……ですか」


 俺の答えに桜小路が何やら考え始めた。何となく桜小路がこれからどう行動するのか予測はできたが、ぶっちゃけ知名度で言えば桜小路の方が大きいし、もし桜小路がE組に訪れて、露木に近付けば、俺の時の騒ぎより増す上に嫉妬や恨みなどを買う可能性もある。

 そう考えると、それはやめた方がいいと言った方がいいだろうか。

 俺が思い悩んでいるうちに、桜小路が考えをまとめ、決意した瞳で俺を見る。


「直接会いに行くのは露木君に迷惑が掛かると思っていましたが、手紙作戦が失敗したのなら最後の作戦に移行するまでです。私が直接露木君に会いに行きます」

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