第一話 モブキャラの露木陽也にラブコメは起こらない 前編
放課後。
誰かと語る友達も、部活に所属していない帰宅部の僕は帰りのホームルームが終わった後、スクールバックを持って目立たないように直ぐに教室を出て昇降口へ向かった。
当然のことだが、僕と同じように直ぐに帰宅する生徒の姿は見当たらない。皆教室や廊下で友達と芸能人の話やテレビの話題または、どこへ遊びに行くかで談笑して喧騒に包まれていた。
昇降口には虚しく僕一人だけ上履きを脱いでいた。こんな直ぐに帰宅する人なんて僕くらいだろう。下駄箱の中から靴を取り出そうとして、ふと視界に白い封筒のようなものが中に何か入っていることに気付いた。
「何だこれ……? 手紙?」
下駄箱から白い封筒を取り出すと、それは可愛らしい手紙であった。驚く僕はそれを手にし、差出人が誰なのか裏表を確認するが、何も書かれていなかった。それに誰宛なのかも書いていない。
これはもしかすると不幸の手紙?
確か小学生の頃に、不幸のメールが一時期流行っていた。このメールを3人に回さないとあなたは不幸になるでしょうと。でも友達がいなかったせいで不幸のメールを受け取ることがなかったけどね!
ははは……はぁ~、過去の辛い話は永遠に封印し、僕は手紙に視線を落として、しばし考えると僕の記憶にこのような状況と似た経験があった。
「これって所謂ラブレターってやつだよね? でもなぜ僕の下駄箱に……?」
もしや、僕に密かに好意を寄せる美少女が存在するとか?
美少女と言えば星道高校には、天然なブロンドでストレートヘアー、綺麗な碧眼にハーフの美少女が僕と同じ学年に存在する。
確か彼女の名前は
これまで勇気ある男子が桜小路さんに勇猛果敢に告白する人が、ここ1年間で百人以上いるという噂を耳にしている。しかし、桜小路さんは悉く男子の告白を断って未だに彼氏がいない状態。もちろんその中にイケメン男子も桜小路さんに告白しているとか。
全部噂で聞いている。友達のいない僕にどうやって噂を聞いているかって? それは朝のHR前とか、昼休みに、机の上で突っ伏して周りの話し声を聞いて情報を仕入れているのだ。ぼっちあるあるだよね?
それはともかく、桜小路さんが百人以上も告白を断るには理由があるはずだ。それは他に好きな人が存在するといった理由が先に浮かび上がる。
そして、僕が手にするラブレターの差出人は桜小路さんであり、好きな相手というのが僕である。これはもしや灰色な青春へ一直線の僕にようやく春が訪れた!
いやーまさか桜小路さんの本命が実は僕だったなんて思わなかったな~。当然この告白に僕は受け入れる所存であります!
だって僕にとって高嶺の花である桜小路さんと付き合えるんだよ?
だけど僕は恋愛について、アニメやゲームでしか知らないし、実際僕は桜小路さんの事が好きかと言われると答えは分からない。しかし桜小路さんが彼女になると、スクールカースト底辺の僕が一気に上位層へ下克上できる程の特典が満載! そしてリア充になった僕は鼻を高くして、周りには僕の彼女は桜小路さんなんだよね~って吹聴して自慢話をするんだ!
リア充王露木陽也とは僕の事だ!
………………………………
……………………
…………
……
僕はそんな妄想に浸って口元をだらしなく緩んで、「ふひひ」と笑い声が漏れてしまった。
慌てて周囲を確認すると、生徒は未だにいない。
何だか虚しくなった僕は溜息を吐いて、先程までのテンションが大暴落する。そうそう大暴落した時のFXって怖いよね……。今までプラスだったのに数分でマイナスになって阿鼻叫喚するんだから。そう考えるとロスカットってマジで良い機能だと思うよ。
「はぁ……まあ相手が桜小路さんじゃないのは当然だろうけど、これがラブレターとしても僕の下駄箱に入ってるのも怪しいんだよね。可能性としては手違いで僕の下駄箱に入れてしまった……そのパターンだろうな」
もう一つのパターンは、ぼっちである僕の反応を楽しむために悪戯するという最悪なパターン。仕掛ける側は面白いからやってんだろうけど、仕掛けられた側は凄く傷つくんだよ? だってラブレター貰って嬉しくない男子なんて絶対にいないだろうし、小躍りするほど嬉しい。特に僕のような女子に縁のない人にとっては。
僕は周りを警戒するようにキョロキョロと窺うが、僕の反応を楽しむ人達はいないようだ。悪戯を仕掛けている様子は無さそうかな。
そうなると、この手紙はラブレターの可能性は高い。だけど問題は誰宛なのかだ。僕の下駄箱に入っていたけど、きっと僕宛じゃないことは確かだ。だって僕は学校では影が薄く、ぼっちでコミュ障だから、僕にラブレターを書く女子なんて絶対にいないに決まっている。
「僕宛じゃないけど、自分で自分を否定するとそれはそれで虚しくなってくる」
憂鬱な気分になった僕は、このラブレターが誰宛に書かれたものなのか推理する。
中身を確認するのは書いた人に悪いから、察しのいい(?)僕がその相手に無事に届くよう頭を働かせないと。
まず、僕の下駄箱に入っているということは、クラスは当然E組に限定される。そして相手だが……何となくそれが誰なのか僕は一瞬にして答えを導き出した。
E組といえば、リア充でイケメンの男子が一人思い浮かぶ。
彼の名前は
「ふっ、簡単な事件だった」
一人ニヒルな笑みを浮かべる僕は、間違って僕の下駄箱に入れたラブレターの主へ親指を立てた。全くおっちょこちょいな女子だな。察しのいい(?)僕じゃなきゃ、久瀬君にラブレターが届かなかったぞ☆
僕はラブレターを久瀬君の下駄箱に入れた。自然と溜息を吐いた。はぁ~。
モブキャラである僕の役目は、恋の行方を正しい方向へ導く事である。
「どうかラブレターの主の想いが久瀬君に届くように………………………………くっ、どうせ僕はぼっちでキモオタのモブキャラだよ! リア充爆発しろおおおおおおおおおおおおおお!!」
全力疾走した僕は息を切らして校門前で一度立ち止まって息を整える。ふと僕は振り返って星道高校を見上げた。すると屋上に目立つブロンドの髪が揺れているのを遠目で映った。その正体は直ぐに桜小路さんだと分かった。
「屋上で何してんだ?」
当然の疑問であり、答えも直ぐに出る。
恐らく桜小路さんは屋上に呼び出されて誰かに告白されている場面だろうと察する。桜小路さんの対面に相手がいるのだろうけど姿は見えない。
「まあ僕には関係のない事だけどね。帰ってゲームしよう」
踵を返した僕は進み途中のゲームを一刻も早くやりたい気持ちが沸き起こり、少し早歩きで帰宅した。
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