第十三話 青春ラブコメ部結成! 前編
「文芸部とは仮の名、ようこそオタク部へ! さあ露木君! この入部届に名前を書いてちょうだい!」
空き教室に訪れた僕に入部届と書いてある紙を顔の前に突き付けてきた桜小路さん。僕はそれを手にして、桜小路さんと交互に見比べて疑問符が浮かべる。オタク部というのは一体……。
「えっと……オタク部? 文芸部? って桜小路さんが所属する部活なんでしょうか?」
「違うわ。部活を新しく作ったの。ほら、とあるラブコメには隣人部とか奉仕部とかゲーム同好会ってあるでしょ? だから私も作ってみました」
確かにラブコメもののラノベには、主人公とヒロインが部活に入るシーンなどが描かれている。しかし、桜小路さんが例に挙げた部活って……
「人間関係が複雑になる作品だよね?」
そんな僕の疑問を余所に桜小路さんは言葉を続けた。
「それに部室があるとオタク話を心置きなく語られるでしょう? 私もっと露木君とオタク話がしたくってうずうずしてるのよ! あ、ちなみにこの部活は非公式で私達の承認を得られなければ所属することが不可能となっているのよ。その辺は生徒会長さんと話は通してありますから。でも条件として部員を後二人必要なのよ。私としては露木君と二人が良かったのに……」
二人……。それはそれで僕の身が持たないから僕たち以外に部員が欲しい。だって学校のアイドルと二人っきりなんて緊張するに決まってるでしょ!
あ、でも僕って基本的にオタク話に火が付くと周りが見えなくなるというか……オタクならそういう傾向あるよね?
とにもかくにも僕は帰宅部だから、オタク部に入るのは構わない。というか桜小路さんとオタク話ができる場所があると、それはそれで周りの視線を気にせず語られるから嬉しい。
恐らく桜小路さんはその辺の考慮とオタクバレ防止のために部活を作ったんじゃないかと思っている。
それにしても立て続けに続くイベント――その中で一番大きい学校のアイドルとの友達イベントや部活に入るなんて、まるでラブコメみたいだ。
そうなると僕が主人公になったような錯覚を覚えてしまう。基本的に僕はモブキャラで、決して主人公になれる器ではないのだから勘違いしないようにしないと。
う~ん、でも立て続けにイベントが発生していると、これって死亡フラグなのかなって思ってしまう……。若干の不安要素はあるけど、それでも僕は今までにない日常に胸躍らせていた。
入部届に学年クラス名前を記入すると、桜小路さんに渡した。
「ようこそオタク部へ! ってまだ部員を集めないと部活として認めて貰えないのですが……でも後二人です! それでは早速、部員を集めるために誰をオタク部へ入部して貰うか考えましょうか」
テンション高めな桜小路さんがノートとシャーペンを取り出して、候補者と書いた。あ、やっぱり学校のアイドルともなれば字も綺麗なんだな。何だか一つ桜小路さんの事を知れて、僕は嬉しくなった。
「オタク部ならやっぱり僕たちのようなオタク趣味の人を入れるべきだと思いますけど……」
「それは私も思っていました。だけど私の調査では適任者が露木君しかいませんでしたし……」
「え? 調査?」
「あい、いえ!? 何でもありません!? 気にしないで下さい! ごほん」
その調査が気になったけど、桜小路さんから詮索するなオーラを放っていたため、これ以上訊けなかった。
僕の調査って一体どこまで僕の事を調査したのか少し気になった。もしかして僕の性癖まで知られたとか……? 特別変な性癖は持ってないけど……それでも僕がブロンドの髪が好きだという事を知られるのは恥ずかしい。特に桜小路さんのような天然のブロンドは見惚れてしまう程に美しく一度手に触れたいくらいである。
ってこれ以上は桜小路さんを意識してしまうから、候補者を考えないと。う~ん、誰かいるかな?
「オタク……オタク……あ!」
「もしかして誰か心当たりがあるの?」
「あの……僕友達がいなかったので力になれそうにないです……」
今まで僕はぼっちだったから考えた所で、オタクの友達も知り合いも存在しないから力になれなかった。
「えっと……だ、大丈夫よ! 私が露木君の友達だから元気出して!」
それはそれで嬉しいけど……。そういえば友達は桜小路さんの他にも三人いる。久瀬君にモモっち、雨宮君。四人も友達がいるなんて、ぼっちだった僕がいつの間にか成長していることに気付かされる。でも幸運なんて長く続かないし、これから僕は不幸のどん底へ落とされるだろうな。主人公補正とか備わってないし……。
でなければ一ヶ月経たずして友達が四人もできるなんて絶対におかしい!
「桜小路さん……今日は僕の命日になるかもしれません」
「え? い、いきなりどうしちゃったのよ? 何か困っていることがあったら私に相談して?」
「僕に友達が何人もできるなんて絶対におかしいんですよ」
「露木君……それは何もおかしくないのよ? って露木君って私の他にも友達がいるの?」
何だか桜小路さんに酷い事を言われたけど、きっと桜小路さんは酷い事を言った自覚はないはずだ。
「オタク趣味はないと思うんですけど……でも久瀬君はゲームについて話したりするから、オタクの部類に入ってもいいのかな?」
「でもイケメンリア充よ?」
「爆発した方がいいですね」
「それは同意ね」
ごめん久瀬君、イケメンでリア充ってだけで罪だから僕は久瀬君の擁護ができないよ。
ん? そう考えると桜小路さんもリア充って事になるのかな?
「…………」
「え? 露木君? どうして私を敵視するの?」
「い、いえ……桜小路さんもリア充なんじゃないかなって思って」
「むぅ~、それダウト! 学校のアイドルなんて私は呼ばれているけど、近寄ってくる男子は全員が下心持って近付いてくるし、女子に至っては私に嫉妬するし、心から友達といえる人は少ないのよ?」
「えっと……た、大変ですね」
「ホント大変よ。でもこうして安息の地ができて、オタク友達ができたから、これからの学校生活が結構楽しみなんだ」
学校のアイドルなんて言われているが、その裏では色んな苦労話が隠されている。もしかするとアニメやラノベにもこういった人気者故の苦労話が語られないだけで実在するのだろう。
「えっと話は戻しますけど、久瀬君以外だと……モモっち?」
「………………」
急に部屋の空気が悪くなって僕は困惑した。一体何が? なんて言われるまでもなく、なぜか桜小路さんからジト目で僕を見つめてきた。
ど、どうして? 僕何か桜小路さんの機嫌を悪くするようなことを言ったかな? 先程の言葉を思い返しても原因が分からない。
「も、モモっちはオタクじゃないけど……頼めばもしかすると入ってくれるかな?」
「オタクじゃない人、ダメ、絶対、条件、オタク」
「あの喋り方おかしいですよ?」
「露木君ってその人と結構仲いいの? あだ名で呼び合う仲だし……」
「え? それは……どうかな。僕は友達だって思ってるけど、モモっちの方は分からないかな。もしかすると罰ゲームで僕をからかってるとか……」
「罰ゲーム?」
「あ、い、いえいえ何でもないです!? えっと部活に入る条件がオタクって事でいいんですよね?」
「…………時々露木君って私に対して敬語よね?」
「え? そ、そうです……か?」
「うん。同級生で友達なら敬語って変だと思うの」
「そ、そうで……だよね。ぜ、善処、するよ」
未だに桜小路さんと話すと緊張してしまうのは僕側の問題だけど、慣れるのにしばらく時間が掛かりそう。
しかし、部員があと二人必要で条件がオタクであるとなると、相当限られてくる。それに多分だけど桜小路さんの許可も必要となってくる。そうなると部活の設立は難しいんじゃないかな? どこかで妥協点がなければ多分無理だ。それなら久瀬君とモモっちを候補に入れるべきかもしれない。
久瀬君と桜小路さんは何だか仲が良さそう(?)だし、久瀬君の許可さえあれば大丈夫のはず。多分。
モモっちの場合は桜小路さんとの相性が分からないため、判断しかねる。
一応話をするだけしよう。もしダメそうなら別の候補者を探す事も視野に入れる必要もある。そうなると雨宮君になる。でも雨宮君が部活に入ってるか知らないんだよな。
「やっぱり久瀬君とモモっちが僕の中で候補者なんだけど……どうかな?」
「そう、ね。久瀬君は構わないけど、そのモモっちって言う人? 私は初対面だから現状何とも言えないわね……でも露木君がそこまで信用できる人なら…………その人で妥協するわ」
何だか不服そうな顔をしていたけど、初対面だよね?
取りあえず、方針は決まって明日から行動を開始することにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます