第九話 桜小路綺音のリベンジ! 後編
中庭にあるベンチでお昼にした。人はまばらで、時折恋人らしき人達が何人か通るくらいだった。ってもしかしてこの中庭って恋人が来る場所なの?
何だか意識したら顔が熱くなった。軽く深呼吸してからあんぱんを咀嚼した。
隣にいるモモっちは膝の上に弁当を広げていた。チラッと確認すると、定番のだし巻き卵やウィンナー、サラダポテトというラインナップを目にした。何だか美味しそうだ。モモっちが作ってきたのだろうか?
「ん? もしかして私の弁当に興味津々?」
「え!? えっと……う、うん。モモっちが作ったの?」
「そうだよー。まあ余り物を詰めただけなんだけど。それじゃあ……」
モモっちがだし巻き卵を箸で摘まむと、それを僕の方へ差し出してくる。こ、これって食べて良いって事? で、でもその箸って……あ、友達なら間接キスが当たり前なんだっけ? う、う~ん、それでも意識してしまうな。
いやでもラブコメでもある、あ~んは恋人同士がする行為では? そもそも恥ずかしくってできない!
「えっと、じ、自分で食べるよ」
「ん? これくらい友達なら普通でしょ? 一見恋人がする行為だけど、それはもう昔の話だよ(多分)。今は普通に友達でもやる行為だよ(多分)?」
「え? そうなの?」
またしても僕の価値観が覆った。
あ~んという行為は友達でも普通にする……? あ、でも幼馴染みなど恋人じゃなくっても主人公にあ~んはしていた。なら普通って事?
僕は心の準備をしてからだし巻き卵を口の中に入れた。
「どお?」
味は甘く美味しかった。ちょっと食レポの語彙が乏しいけど、本当に美味しい。
「美味しいよ! モモっちなら良いお嫁さんになれると思うよ!」
「…………ユッキ―って誰に対してもそんな事言ってるの?」
「そんな事? 僕何か変な事言った?」
「無自覚とは質悪いな……」
やっぱり僕は何かモモっちに失礼な事言ってしまったのかな? モモっちの顔が赤いのは怒ってるとか?
「ご、ごめん……」
「?」
お互い会話しつつ、お昼ご飯を食べ終わると雑談タイムとなった。
まずモモっちから趣味が何かと訊かれた。この時、僕はどう答えたものだろうか。友達なら僕がオタク趣味なのを隠す必要は無いけど、もしモモっちがオタクに嫌悪を抱く人なら言わない方がいいと思う。でも何だが友達相手に秘密を隠すのは気が引けた。
どうするべきか考えあぐねていると、モモっちにじーっと見つめられて、気まずく顔を伏せた。
「もしかしてユッキ―は、オタクだって私にバレて嫌われることを恐れてる?」
「――っ!? ど、どどどうしてそれを?」
「ユッキ―のクラスの友達からそれとなく聞いたからね。でも私はそんな特殊な趣味を持っても気にしないよ? それに人の趣味に口出すのって馬鹿みたいじゃない? 人なんて十人十色で趣味も好みも人それぞれ。中にはオタクってだけで嫌悪感を抱く人はいるみたいだけど」
「そ、そっか……」
どうやらモモっちはオタクに理解ある人みたいだ。僕はホッと安堵の息を吐いた。
「…………萌香はオタク趣味あったかな……聞いたことないしな」
小声でモモっちは誰かの名前を口にするけど一体誰だろうか?
「? もえか? オタク趣味? 誰のことかな?」
「……ユッキーって耳が良いの?」
「へ? そんな事は……普通だよ?」
「まいっか。それよりオタクって事は……確かメイド萌えとか言うじゃん? 萌えだっけ? まあユッキ―の性癖を教えて欲しいな」
「どうして萌えから性癖の話に飛んだの!? ってどうして僕の性癖を言わないといけないんだよ。それと多分モモっちが言いたいのは属性とかかな? メイド属性とか、妹属性とか、そのことだと思うけど」
「そっか、ユッキ―は太もも属性か。ムチムチがいいの? 私の太ももとかどうかな?」
「いやいやいや、どこをどう聞けば太もも属性という話になるんだよ!?」
それにモモっちがさっきから、スカートを上げて太ももを見せてくるから僕は反応に困る。でも気になって、視線が自然とモモっちの太ももへ吸い寄せられる。
健康的な真っ白い太ももは、綺麗な肌で肉付きが良く、挟まれた――いやいやいや、これでは僕が変態じゃないか! べ、別に僕は太ももなんて…………確かに好きだけど。
「はぁはぁ……くっ、モモっちの太ももなんか……に、なんか、に」
「ユッキ―ってば鼻息荒いけど興奮してるの? 何ならトイレで一発いいよ?」
「はっ!? ちがっ、違うよ! こ、こここ興奮なんてしてないってば!? くっ、なんて危険物を僕に見せて! け、けしからん!」
「ふむふむ、取りあえずユッキ―が太もも好きっと」
スマホを取り出したモモっちが僕の性癖をメモられる。やめて!? 僕の性癖をメモしないで!?
「ちょ、ちょっと! べ、べべべ別に僕は太もも好きとかそんなじゃあないよ! だ、だから消してよ!」
「ん? それじゃあ他の性癖は?」
「言わないからね!」
「なら私の性癖も教えるけど、実はイジメるのも、イジメられるのも好きなんだ」
「SM両刀!?」
「今の私は――ふふ、ユッキ―の困り顔がそそられてくるわね。ゾクゾクしてもっとイジメたいかな?」
妖艶に唇を舐めるモモっちに僕は身の危険を感じて、距離を空けた。これ絶対ドSだ! Mとか絶対違うに決まってる!
「まあ一割方冗談」
「ほとんど本気だ! やっぱり身の危険が!?」
「ユッキ―だって女の子にイジメられて感じる体質でしょ? ほらオタクって皆ドMって聞くし」
「オタクが皆ドMとか、それ偏見だからね! と、とにもかくにも僕はノーマルだから」
とそこで丁度チャイムが鳴った。
お昼休みなのに、何だか僕は疲れた。また休みたい気分である。
「ユッキ―とのスキンシップも一旦終えて教室に戻ろうか。あ、今度ユッキ―のお勧めのアニメとか教えてね?」
「それなら、いくつか候補を考えるよ」
「エロいのでもいいよ」
「ごめん……それは僕も知らないし、進められないよ」
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