第7話無事、就職! だけど……

 晴れて就職した私は、社員寮に引っ越しました。

 そのころ母親は六十歳を過ぎてようやく現実と向き合い、節約に目覚めました。

 それから、私の、加藤家の経済状況は改善しつつありました。

 月給は十三万円、昇給なしとはいえ、寮費が水道代込みで月々三千三百円と安く、社員食堂も二食付きで月々五千円でした。

 また、十代のころに身に付けた節約術をフル活用することで、就職二年目には貯蓄ゼロから五十万円にまで増えました。

 同時に、私は別のものも溜めてしまいました。ストレスです。

 拙作「私、生きています~うつ病闘病記~」ほどではありませんが、人間関係にそれなりの負担を感じていました。

 私がかつて勤めていたホテルは部署ごと、部署内での派閥が激しく、左右の分からない私は頻繁に板挟みになっていました。

 その結果、お客様のクレームを生み出すことになるのですが、上司の叱咤は私一人に降りかかりました。

 いかにも、加藤がいるからいけない、といった雰囲気に耐えられなくなった私は、自ら退職しました。

その後、現在の職場であるホテルに再就職します。

 このとき、貯蓄はほとんど残っていませんでした。

 ストレスにより、私の過食が酷くなったのです。

 当然食費はかさみ、今度は私が文句を言えなくなりました。

 それはさておき、要は、節約に限界がある、ということです。

 精神的に耐性が必要ですが、いつかリバウンドするほどの我慢は必要ありません。

 胃潰瘍になったり嘔吐を繰り返すほど、職場にしがみつくことも不要です。

 潔く去るのが、賢明です。

 人間、健康が一番の資産だからです。

 心身の状態がみずみずしいと、お金だけでなく趣味などにもワクワクします。

 水滴を弾く果物の写真を見て「美味しそう」「食べてみたい」と思うことと同じです。

 同じ写真を見て何も感じなくなれば、心と体のどちらかに異変があると疑ってください。


 お金は人生という果物を潤す手段ではあるけれど、果物の全成分ではないということですね。

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