第6話過去

 良く言えば「前向き」悪く言えば「能天気」な私ですが、幼い頃からこうだったわけではありません。

 むしろ真逆で、良く言えば「慎重」悪く言えば「遠慮がち」な子どもでした。

 子ども時代はさておき、高校を卒業した後の私の一部を覗いてみましょう。

 今でこそ前向きな人間の、真逆な過去って、気になりませんか?


 二十五歳でホテルに就職する前は、衣料店やファミレス、コンビニなどの接客アルバイトで生計を立てていました。

 高校を卒業して、七年もの間です。

 もともと薬剤師を目指して猛勉強していたのですが、大学の特待生受験の一か月前、唯一の家族である母親から、いきなり「就職してほしい」と言われたのです。

 泣く泣く薬剤師の夢を諦めた私でしたが、大変なのはこれからでした。

 母親が職場で大けがをしてから、フリーターの私が一家の大黒柱になりました。

 昼と夜、アルバイトの掛け持ちをして家計を支えましたが、常に赤字でした。

 私は生活費のため娯楽の類を一切しなかったのですが、高度経済成長期に青春時代を送った母親は、切り詰めるという言葉を知りませんでした。

 お金に関する価値観が違う二人には、喧嘩が絶えませんでした。

 そんな毎日に疲れ、自分には未来がないとまで思い込んでいました。

 それでも私が自暴自棄にならなかったのは、心の隅にある希望を隠し持っていたからです。

 前述のように、私はかつて薬剤師としての夢を、心臓病で命を落とした祖父のような患者を出さないという目標を失いました。

 自慢ではありませんが、私は学力においては自信がありました。

 とくに数学は偏差値七十以上はキープしていましたし、英語に関しては全国模試で九位にまでなりました。

 高校の恩師が、私を校外の英語暗唱大会に勝手にエントリーしたこともありました。

 特待生度に関しても、合格する確率が高いだろうとまで周囲から評されていました。

 それでも、私は夢を捨てざるを得ませんでした。

 学力が、お金の力に負けたのです。

 この不況時代、私のような方が何百人、何千人といらっしゃるでしょう。

 だからこそ、私は新しい希望を、夢を見付け、現在まで大切にしています。

 詳しいことはまだ言えませんが、学生がお金のことを学びながら夢を実現する社会を作りたいのです。

 あ、言っておきますけれど、政治家ではありませんよ。

 政治家ではなくて、企業家。ここ、重要ですよ。

 ですが、フリーターである限り、母親と喧嘩している限り、夢は夢で終えてしまします。

 ささやかな夢が泡になりかけたとき、私の身に転機が訪れます。

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