第8話再就職後の試練
さて、私は人間関係が比較的良好な職場に恵まれたわけですが、一つ不安がありました。
将来の貯蓄です。
現在私の労働収入は十二万と、以前の職場と比べて一万円の差があり、社員食堂もありません。完全自炊です。それに加え、寮費は月々光熱費込みで一万三千円です。
切り詰めても切り詰めても、貯蓄はほとんどできません。
いわゆる先取り貯蓄をしても、節約をしても、生活費が足りず先取り貯金を手元に戻すというパターンを何か月も繰り返してきました。
そんな中、加藤家に試練が降りかかってきました。
買い物に出かけた母親が、足の悪い運転手に跳ねられたのです。
交通事故発生から三日ほどでしょうか、母親の意識はもうろうとしていました。
主治医からは最悪の事態に備えた方が良いとまで言われました。
それ以外の記憶は今でも曖昧です。それだけ、私はパニックになったのです。
それが人情、人の感情だと思います。
仕事終わりに知らない番号から電話がかかってきたと思ったら、警察が母親の状態を告げたというのですから。
人生最初の夢に幕を閉じるきっかけになり、金銭面での口論の相手にもなったとはいえ、私にとってはたった一人の身内なのですから。
結婚も出産もしていない私が母親を失えば、孤独になるのですから。
それにしても、生きた人間というものは皮肉な存在ですね。
どれほど深い悲しみに陥っても、パニックで前後左右が分からなくなっても、喉は渇くし空腹も感じます。
病院の近くに格安のスーパーがなかったので、朝昼晩と、それはもう外食費がたまりませんでした。
母親の意識が戻った後も何日か食事を摂りましたが、ゴールデンウィーク後の職場復帰を果たしてから身体に異変を感じるようになりました。
まず、何を食べてもまったくといって良いほど味が分からなくなったのです。
そして主食のご飯、パン類が喉を通らなくなりました。
その割にはチョコレートやポテトチップスなど比較的味の濃いものを間食していましたが。
もちろん、お菓子類の味覚もキャッチできませんでした。
ですが、ご安心ください。
いまでは母親もリハビリに励んでいますし、私も食欲、味覚が戻りましたから。
今のところリバウンドはしていないようですが、体重の増加が心配です。
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