何かを薦めるって、こういうことなんだなと。


 キャッチコピーに「万年筆という魔性」とありますが、
 この作品そのものが「魔性」を持ったエッセイであると、声を大にして言いたい。

 そもそも万年筆を使用するのに「向き不向き」があることをはじめ、
 購入前に気をつけるべき初歩の時点から「沼」と呼ばれる深いところまで、ご教示いただけます。

 長所だけでなく、短所についても書かれています。ペンも紙も、いまや電子媒体を含め数多くの種類がある時代。
 その中で敢えて「嗜好品」に近い扱いになっている万年筆を選ぶということ。

 たぶん、この方に薦められたら買ってしまうでしょうが、それも「勢いで買って埃を被らせるのは止めてほしい」と釘を刺しています。
 大切な出会いで後悔しないように、満足できるように、細部まで気を遣った書かれ方をされていると感じました。

 文章からひしひしと伝わる、万年筆(及び、紙やインクといった筆記具全般)に対する愛情。
 熟練のエキスパートでありながら、熱心なファンでもあるんだなあ、本当に楽しそうだなあと思いました。

 知識も必要なのでしょうが、一度も使ったこともない人に魅力を伝えるには、それに関する生きた感覚が必要なんでしょうね。

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