"狂イ"というにはあまりにも高貴な万年筆随想

PC・スマホ時代になって、めっきり文房具にこだわる人も減った中、その雅なこだわりが実によく味わえる一編である。

単純によく知らない万年筆の世界について知識を深められることもさることながら、万年筆へのあふれる愛情を、まさに万年筆で書いたように端正かつつややかに綴られた文章の感じが、読んでいて実に気持ちいい。
まさにエッセイとはこういうものだ、と思わされる。

「メンテナンスを文章で語る意義は薄い。動画を参照するのが一番である」と言うほど、基本的には「機能的」な部分の紹介に終始しているはずなのに、その独特な味わい深さは、さながらよくできた紀行文を読んでいるかのよう。
「ペン先は深淵な万年筆の世界でも特に奥が深い。とにかく金でできた万年筆が持つ夢のような書き心地を堪能することなしに死んでしまうのは勿体ない」と言われれば、なるほどそういうものかと思わされる。

万年筆を持つだけでこういう気品をまとえるのなら安いものなのだが……。
もっとも、その「万年筆を持つ」ことが一筋縄で行かぬことを教えてくれるのも本作なのである。

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=村上裕一)

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