一筋縄ではいかない、地元の「いい話」

郷土料理に地元の名産、山菜に手作り梅干をつけた思い出。
筆者が進学し家を出るまでの、幼少期から青春時代がぎゅっとつまったエッセイです。私もおばあちゃん子だったので、ところどころ共感して泣きそうでした。

みなさん、地元に抱かれている印象はどんなでしょう。川や山に入った思い出、庭先の果物をもいで食べたり、近所の子供と思い切り遊んだり、いたずらをしたり。楽しい思い出と同時に、どこか胸が締め付けられるような、息苦しさや重たさを感じる方もいるかもしれません。

祖父母と同居していた両親。ふたりの子供。生まれ育った家は、おじいさんが山形の地に拓いた織物屋さんで、従業員の方や、織の機械がたくさん。そんな作者さんの記憶は鮮明で、特に食べ物の描写は情感豊かで目の前に景色や香り、味までもが浮かぶようです。
優しいおばあさんと、家族思いの大黒柱だったおじいさん、少し甘やかされて(すみません人の家の事情に)大人になった感じの残るお父さんに、口調は厳しいけれど愛情たっぷりの、ちょっぴりそそっかしいお母さん。無口だけど、しっかり妹を見守ってくれていたお兄さん。


懐かしい郷土料理の数々、工場兼住居のおおきな流し。冬場はつけっぱなしのストーブの上で作った鳥ガラスープ。なにもわからずただただ怖かった、幼少期の祖母との別離。終末介護を家族でこなし、穏やかに迎えた祖父との別れ。小さな女の子が成長し、思春期に入り、大学進学を機に実家を離れ、東京に。
そしてすっかり様変わりしてしまった実家に、大人になって再び帰ってきたときの、視点や家族の見方の変化が鮮やかでした。

家族の記録でもあり、少し懐かしい家庭料理のレシピ集でもあり、ひとりの女の子の成長譚でもあります。読み応えがたっぷりなので、じっくり時間をかけてお読みになることをお勧めします。

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