魏志倭人伝。二千年前にトリップした錯覚を覚える紀行文。

確かに、歴史ジャンルの作品。いや、歴史ジャンルの典型と言うべきか。
魏志倭人伝には帯方郡から日本に至る工程が記されている。A地点からB地点まで東西南北方向に◯里の記述内容が憶測と混乱を呼び、邪馬台国の北部九州説と近畿説の論争を巻き起こすのだが、本作品は、その工程を旅したかのような気分に浸れる紀行文だ。
あの時代の者は、こんな暮らしをしていたのか。こんな考え方で行動していたのか、と臨場感を持って古代日本を追体験できる。
歴史博物館の館内を巡っている雰囲気。
単純な紀行文ではなく、古代日本では脇役に過ぎない張政を主人公に据え、彼の目を通して観察した人間ドラマをも織り込んでいる。
知的好奇心を満たす、面白い作品だ。
加えて、漢字の採用に個性が現れている。振り仮名を振っているので容易に読めるが、実は漢和辞典で調べると「そんな読み方は載ってない!」と驚く事例が多い。でも、漢字と読み仮名がシックリと調和している。作者の国語センスにも脱帽してしまう。