確かに、歴史ジャンルの作品。いや、歴史ジャンルの典型と言うべきか。
魏志倭人伝には帯方郡から日本に至る工程が記されている。A地点からB地点まで東西南北方向に◯里の記述内容が憶測と混乱を呼び、邪馬台国の北部九州説と近畿説の論争を巻き起こすのだが、本作品は、その工程を旅したかのような気分に浸れる紀行文だ。
あの時代の者は、こんな暮らしをしていたのか。こんな考え方で行動していたのか、と臨場感を持って古代日本を追体験できる。
歴史博物館の館内を巡っている雰囲気。
単純な紀行文ではなく、古代日本では脇役に過ぎない張政を主人公に据え、彼の目を通して観察した人間ドラマをも織り込んでいる。
知的好奇心を満たす、面白い作品だ。
加えて、漢字の採用に個性が現れている。振り仮名を振っているので容易に読めるが、実は漢和辞典で調べると「そんな読み方は載ってない!」と驚く事例が多い。でも、漢字と読み仮名がシックリと調和している。作者の国語センスにも脱帽してしまう。
北狄専門で東夷は興味薄でしたが、
この度初めて『三國志』魏志倭人傳に
朱を入れて読むこととなりました。
それというのも、本作の確固とした世界は
必ずや裏打ちする史料によっているはず、
と興味を惹かれたことによります。
無論、知識として難升米、都市牛利、梯儁、
張政の存在を知ってはいましたが、脳裏に
彼らを描けるほどには読み込んでいません。
そんな曖昧な存在だった彼らを生き生きと
描き出す本作の描写は、よほどに史料を
読み込むか、訓練された想像力か、その
いずれかによらねば難しいと思います。
冗長さを排した文章は抑制が効いて簡潔、
表現からは冗長と無駄が省かれ、しかし、
読む者が脳裏に倭人傳の世界を描くのに
十分な情報を与えてくれます。
かなり推敲されていると見ました。
さらに気になるのは人名や地名のルビ、
漢音ならズィウェンのはずの子文のルビが
「シェイムン」、難斗米が「なとめ」、
張政が楽浪の人なので、漢人は韓音とし、
日本人は万葉読みになっている???
でも、それなら子は「ジャ」になりますか。
うーむ、語学は苦手なので分かりません。
張政の倭国訪問を楽しみにしています。